アジアを「野心」からどう守るか?──2つのカギはインドの「クセ」と日韓関係
ILLUSTRATION FROM PROJECT SYNDICATE YEAR AHEAD 2023 MAGAZINE
<地政学的な「真空」を狙う、大国と大国になりたい国々。故・安倍首相が残した安全保障の枠組みと日本が取るべき外交政策とは?>
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにインド太平洋地域の人々は、この地域において目に見える形で、あるいは水面下で悪化しつつある問題が戦争につながる可能性はあるのか自問するようになった。
2022年8月の米民主党のナンシー・ペロシ下院議長による台湾訪問への中国の激しい反応を見れば、答えは明確に思える。インド太平洋地域はヒンズークシ山脈から南シナ海、38度線まで警告抜きで武力紛争が始まってもおかしくないような、根深い歴史的反目と国境をめぐる独善的主張に満ちているのだ。
この地域の指導者たちは、国家の野望や互いの敵意が戦争へとエスカレートするのを防ぐ平和のシステムをつくることは可能か、という問いを突き付けられている。平和を乱そうとする者を思いとどまらせるには戦略的な信頼関係が必要だが、それを築き上げることができるかどうかは主に、この地域の民主主義諸国に懸かっている。
だが、この目標の達成は22年、安倍晋三元首相の射殺という大きな悲劇によって遠のいた。アジアと不可分のダイナミズムを平和的な方向に向かわせるための指針や枠組みを提供するにはどんなタイプの同盟や条約、制度的構造が必要か、安倍元首相はずっと考えていた。
アジアは欧州諸国のように多国間組織や同盟で強く結ばれてはいないこと、そうした結び付きこそが平和と繁栄を維持する基盤となることを、彼は認識していた。
そこで安倍元首相は、インド太平洋地域全体の平和の礎となるべき2つの枠組みの旗振り役を務めた。1つはクアッド(日米豪印戦略対話)、そしてもう1つは環太平洋11カ国が加盟する包括的・先進的TPP協定(CPTPP)だ。
インド太平洋地域全体のための「交通ルール」の構築につながる2つの枠組みを彼はつくったことになる。クアッドは4カ国間の関係強化により、またそれぞれの国が他の国との戦略パートナーシップ(アメリカと韓国、インドとベトナムなど)を強化することにより、安全保障の分野で地域をリードしている。
またCPTPPについては、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を通した中国のアジアにおける経済覇権の確立を阻止できるという理解で、安倍元首相と加盟国の指導者らは一致していた。設立から4年、CPTPPは加盟各国の指導者たちが足並みをそろえて協力し合うさまざまな機会を提供している。