自らエネルギー危機を招いたEUの「あまりにも素朴すぎた」対ロ経済制裁
SELF-INFLICTED WOUNDS
EUが世界のエネルギー消費の11%を占めていることを考えるなら、EUがロシア産ガスに代わるエネルギー供給源を確保しようとすれば、世界経済が混乱することは十分に予想できた。
ただでさえ石油やLNGの供給は逼迫していた。ロシアからの供給が途絶えた分を補うだけの余力はない。だからEUがロシアの天然ガスを切った途端に、世界中でエネルギーが足りなくなった。アジアや中南米など、従来から輸入に頼っていた国は悲鳴を上げている。
経済と貿易を回すのに外交や安全保障上の配慮は無用と、従来のEUはあまりにも素朴に信じていた。しかしウクライナの戦争で、その誤りを突き付けられた。
本来なら、ロシアからのガス供給が止まったらどうなるかを熟慮し、議論した上で制裁を発動すべきだった。ヨーロッパ全体の社会・経済的安全保障に関わる重大な問題なのに、EUは慌てて制裁を決めるという戦略的な大失態を演じてしまった。
ロシアがウクライナでしていることは絶対に容認できず、強力な対応が必要だ。しかし、そのためにヨーロッパが自らの競争力を削り、国際的な地位を損なうことがあっていいのか。ある意味、これはEUが自ら招いた未曾有のエネルギー危機だ。ここから抜け出すには何年もかかる。
ブラマ・チェラニ
BRAHMA CHELLANEY
インドにおける戦略研究・分析の第一人者。インド政策研究センター教授、ロバート・ボッシュ・アカデミー(ドイツ)研究員。『アジアン・ジャガーノート』『水と平和と戦争』など著書多数。