最新記事

宇宙

人類が天体の動きを意図的に変えた史上初の成果 探査機を衝突

2022年10月17日(月)17時25分
松岡由希子

ディディモスと衛星ディモルフォスへ接近するDARTの想像図 (NASA)

<NASAは10月11日、「探査機『DART』を衝突させ、小惑星ディモルフォスの軌道を変えることに成功した」と発表した......>

アメリカ航空宇宙局(NASA)は2022年10月11日、「探査機『DART』を衝突させ、小惑星ディモルフォスの軌道を変えることに成功した」と発表した。人類が天体の動きを意図的に変えた史上初の成果となる。

直径約160メートルのディモルフォスは、直径約780メートルの地球近傍小惑星(NEO)ディディモスを11時間55分の周期で公転し、ディディモスは太陽を2.11年周期で公転している。これらの二重小惑星は地球にとって脅威ではないが、地球の比較的近くを通過するため、「プラネタリ・ディフェンス(惑星防衛)」の技術を実証するNASA初のミッションのターゲットに選定された。

「DART」は2022年9月26日19時14分(東部標準時)、地球から約1100万キロ離れたディモルフォスに秒速約6.6キロで衝突した。

想定以上に小惑星の公転周期を変化させた

このミッションを主導する米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所(APL)の研究チームは、米ウェストバージニア州のグリーンバンク望遠鏡やチリのラス・カンパーナス天文台のスウォープ望遠鏡など、地上の望遠鏡を用いてディモルフォスの公転周期の変化を調べた。その結果、「DART」の衝突がディモルフォスの軌道を変え、11時間55分であった公転周期が32分短縮し、11時間23分になったことが確認された。

研究チームは73秒以上の公転周期の変化をミッション成功の基準と定めていたが、実際にはこの基準の25倍以上であった。NASA惑星科学部門長ロリ・グレイズ博士は「この結果は、『DART』とターゲットとなる小惑星との衝突の最大効果を解明するうえで重要な一歩だ」と評価している。

研究チームでは、現在、「DART」がディモルフォスに高速で衝突した際の運動量移行の効率について解明をすすめている。「DART」の衝突によってディモルフォスから大量の岩石が噴出物となって放出され、噴出物が放出された反動でディモルフォスへの押力が強くなった。噴出物からの反動の影響を正しく理解するためには、ディモルフォスの表面の特性や強度など、その物理的な性質を詳しく知る必要がある。

イタリア宇宙機関の小型探査機が搭載、分離し、衝突を撮影

「DART」にはイタリア宇宙機関(ASI)の小型探査機「LICIACube」が搭載され、ディモルフォスとの衝突の数日前に「DART」から分離して、衝突の様子やディモルフォスからの噴出物を撮影していた。研究チームでは「LICIACube」が撮影した計627枚の画像を分析し、ディモルフォスの質量や形状を推定する計画だ。

2026年後半には、欧州宇宙機関(ESA)が主導する二重小惑星探査ミッション「Hera」で、「DART」との衝突で残されたクレーターの調査やディモルフォスの質量の測定など、ディモルフォスとディディモスの詳細な調査が実施される。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ウ協議の和平案、合意の基礎も ウ軍撤退なければ戦

ワールド

香港の大規模住宅火災、ほぼ鎮圧 依然多くの不明者

ビジネス

英財務相、増税巡る批判に反論 野党は福祉支出拡大を

ビジネス

中国の安踏体育と李寧、プーマ買収検討 合意困難か=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中