最新記事

フィリピン

「父マルコスは独裁者ではなく戒厳令は必要だった」 マルコスJr新大統領が擁護発言、波紋広がる

2022年9月15日(木)19時00分
大塚智彦
イメルダ夫人と息子で新大統領になったボンボン・マルコス

イメルダ夫人と息子で新大統領になったボンボン・マルコス Eloisa Lopez / REUTERS

<フィリピンで依然として大きな力をもつ一族がついに復権か>

フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)が6月30日に新大統領に就任して以来初となるメディアとのロングインタビューに応じ、父であるマルコス元大領について「独裁者ではない」と述べたほか「戒厳令は必要だった」との見方を示した。

こうしたマルコス大統領の意見や見方に対して左派系団体からは「戒厳令が必要だったなどというのは嘘である」と反論がでるなど、マルコス大統領の「父親擁護」は今後世論を沸騰させる可能性も出ている。

このロングインタビューはテレビ局「ALLTV」が9月6日に収録したものを13日に放映。14日に地元各紙などがその内容を伝えたもので、マルコス大統領がマスコミのロングインタビューに応じたのは大統領就任後初となる。

聞き手は近い関係ながら鋭い質問も

このインタビューは女優で歌手でもあるテレビ司会者のトニー・ゴンザガさんが務めた。

ゴンザガさんはマルコス大統領の選挙運動を応援したほか、大統領就任宣誓式にはフィリピン国家を斉唱するなど近い関係とされるが、今回のロングインタビューではその近さを利用して鋭い質問を繰り出し、評価を受けているという。

インタビューではマルコス大統領の父であるマルコス元大統領についてマルコス一族の税金・財産問題や戒厳令、独裁政治、歴史認識などについて切り込んだ。

マルコス大統領は「父が大統領在任中に実に多くの農民団体や住民団体などをマラカニアン宮殿に招いて陳情を受けていたのを目撃している」としてその後のどの政権よりも国民の声に向き合ったとし、「こういう人物を独裁者とは呼ばない」と述べて、父を独裁者とする現代史の見方を否定した。

さらに1972年9月に全土に布告した戒厳令についても「反政府活動家や学生、マスメディアへの弾圧の根拠となり殺害や行方不明者を多数出したフィリピンの暗黒時代」とされていることに関しても「当時は新人民軍」(NPA)とモロ民族解放戦線(MNLF)の反乱と戦っていた。彼らは暴力的な手段で政府を打倒しようとしたため、政府は自衛する必要があった。当時共産主義勢力はマニラ首都圏や地方の主要都市に迫っており、対応策が必要だった」として戒厳令は治安維持のためにどうしても必要だったとの認識を示した。

またマルコス一族の多額の財産に関してもすでにその多くを放棄しており、ほとんど財産はないとして財産問題は存在しないことを強調した。

さらにマルコス大統領は「歴史は勝者によって書かれるものだ」との見解を示し、ゴンザガさんに対して「あなた方が学校で学んだのはそうした歪曲された歴史である」と指摘した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ

ワールド

中国、EU産豚肉関税を引き下げ 1年半の調査期間経

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中