最新記事

戦災

命がけの逃避行...その先でウクライナ難民たちを待っていた「避難生活」の苦難

NO WAY HOME

2022年5月18日(水)17時16分
デービッド・ブレナン
ウクライナ難民

難民シェルター用に改造されたクラクフ(ポーランド)の旧駅舎で休むウクライナ難民 OMAR MARQUES/GETTY IMAGES

<住む町を追われたウクライナ人は1300万人以上。帰るべき家は既に破壊され、国に戻っても戦闘激化と経済の混乱が待つだけ>

ロシアのウクライナ侵攻で顕著なのは、民間人の被害が大きいことだ。そのため膨大な数のウクライナ人が国内外へと避難している。その多くは二度と故郷に戻れないかもしれない。

国連の調査によれば、難民になった市民は1300万人以上。そのうち約770万人は国内にとどまり、約575万人が国境を越えた。

ロシア軍は当初、電撃作戦によって短期間に戦いを終えようとしたが見事に失敗した。いま双方は、戦闘の長期化に備えている。

ロシア軍の空爆は、既に民間人の居住地域を広い範囲で破壊した。南東部のマリウポリや、首都キーウ(キエフ)近郊の北部の町は、もう人が住めないと思えるほど破壊されている。戦闘が終わるまでには、こうした地域がさらに増えるだろう。ウクライナのドミトロ・クレバ外相も、東部のドンバス地方での今後の戦闘は第2次大戦を思い起こさせるほど激しいものになると予測する。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ウクライナ代表のカロリーナ・ビリングは、キーウから本誌の取材に応じた。彼女によればドネツク、ルハンスク(ルガンスク)、ハルキウ(ハリコフ)、ザポリッジャ(ザポリージャ)の各州では、最も被害の大きい地域の約75%で民間人の住宅が破壊されている。「非常にまずい数字だ。これだけ破壊されれば、市民の帰還を阻む要因になるのは間違いない」と、ビリングは言う。

ドンバス侵攻時に難しさを経験

ウクライナ当局と国内外の支援組織は2014年にロシア軍がドンバス地方に侵攻した後、難民を適切に援助する難しさを既に経験している。「あのときの戦闘は、今回に比べてはるかに小規模だった」と、ビリングは言う。「今回は、これから何年、何十年にもわたって支援が必要であることを認識しなくてはならない」。ビリングは長期的な見通しを示すことを避けたが、14~15年の東部での戦闘で避難した住民は「基本的に帰還を諦めた」と述べた。

ウクライナ西部と国境を接するポーランドは、ウクライナ難民を最も多く受け入れている。その数、約310万人。ポーランドの主要都市当局は、長期にわたって難民が滞在できるよう準備を進めている。

ポーランド南部のクラクフには約15万人のウクライナ難民が滞在していると、市当局はみている。クラクフの人口は76万6000人ほどで、ウクライナ国境からは約200キロ。住民の多くが侵攻前から、何らかの形でウクライナとのつながりを持つ。

「難民の大半は、クラクフに住んでいるか、ここで働いている親族や友人を頼って来ている。受け入れ先がはっきりしない人々については、市で滞在施設を用意した」と、市の広報担当は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ・ミコライウ州のエネインフラ攻撃

ワールド

リトアニアで貨物機墜落、搭乗員1人が死亡 空港付近

ワールド

韓国とマレーシア、重要鉱物と防衛で協力強化へ FT

ワールド

韓国サムスンのトップに禁固5年求刑、子会社合併巡る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中