最新記事

台湾

ウクライナ侵攻「明日はわが身」の台湾人が準備しているもの

WATCHING UKRAINE, TAIWAN WARY

2022年4月19日(火)16時45分
ブライアン・ヒュー(ジャーナリスト)
蔡英文

3月12日に台北郊外で行われた予備役の訓練を視察する蔡(中央) WANG YU CHINGーOFFICE OF THE PRESIDENT, ROC (TAIWAN)

<勇敢なウクライナ人を称賛する台湾では、中国による侵攻シナリオをめぐる議論が加速。軍事訓練の延長、武器の購入......。中国は現にロシアの侵攻後も台湾威嚇を続けている>

台湾社会にとって近年、ロシアのウクライナ侵攻ほど政治的に興味をそそられる事件はほぼ皆無だった。例外と言えば、2019年に香港で起きた民主化デモくらいだろう。

それも驚くには当たらない。どちらも、台湾の内部に深く根差した懸念を刺激する出来事だからだ。ウクライナ侵攻は台湾社会の幅広い範囲で、中国による侵攻のシナリオを示す例と見なされている。

特に注目すべきなのは、軍事的な準備をめぐって議論が起きていることだ。台湾の軍と市民は、中国による侵攻を撃退する用意がどこまでできているのか──。

台湾では、ウクライナ人の勇敢さに対する称賛が高まっている。

なかには、台湾の歴史と引き比べる声もある。過去の侵攻に抵抗した台湾の愛国者らと同じ精神を、ウクライナ人は示していると、与党・民主進歩党(民進党)の重鎮である游錫堃(ヨウ・シークン)立法院(国会)院長は発言した。

その一方で、ウクライナと台湾の比較が妥当かどうかについて、論争も起きている。

蘇貞昌(スー・チェンチャン)行政院長(首相)は3月前半、最大野党・国民党の傅崐萁(フー・クンチー)立法委員(国会議員)の質問に対して、ウクライナとは事情が異なると相違点を挙げ、比較はばかげていると退けた。

専門家の見方も同様だ。台湾は歴史的にアメリカとの関係がより強固で、半導体製造の中心地として世界経済における重要性がより大きく、陸続きでないので侵攻は困難だと、彼らは指摘する。

それでも、台湾の一般市民が共通点を見いだしている事実は、より大きな意味を持つかもしれない。さらに、ウクライナとの類似を示唆する声は政治家の間でも上がっている。

予備役動員で自衛を目指せ

注目すべきは台湾の半導体産業への影響だ。ウクライナは半導体製造に不可欠なレアガス(希ガス)であるネオンの主要生産国で、同じく希ガスのクリプトンの4割を供給する。

半導体生産での優位性の維持は、台湾の安全保障にとって極めて重大だ。

有事の際、アメリカが台湾を防衛するインセンティブを強化するだけではない。中国も台湾の半導体を必要としているため、侵攻の脅威そのものを回避できるからだ。とはいえ半導体産業への影響は台湾に限らず、世界に及ぶだろう。

将来的な戦争準備をめぐる議論はこれまでのところ、大勢の予備役を動員するウクライナを参考例として、予備役の期間延長が主な論点になっている。加えて、女性も予備役の対象とする提案も上がる。

 20220426issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2022年4月26日号(4月19日発売)は「習近平のウクライナ」特集。台湾統一を狙う習近平と中国共産党は「ロシアの失敗」から何を学んでいるか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中