最新記事

エンターテインメント

BTSの音楽がアメリカ人に受けている理由(評:大江千里)

THE LIGHT AND DARK

2022年4月2日(土)18時30分
大江千里(ニューヨーク在住ジャズピアニスト)

「Dynamite」で名実共に世界的アーティストに(2020年11月、アメリカン・ミュージック・アワード)  BIG HIT ENTERTAINMENTーAMA2020/GETTY IMAGES

<「同じアジア人として」どう聴いたか。音楽評論をするアメリカ人の友人はどうみているか。2022年グラミー賞にシングル「Butter」がノミネートされているが(発表は日本時間4月4日)、彼らはどこに向かっているのか> ※本誌4月5日(火)発売号は「BTSが愛される理由」特集です(アマゾン予約はこちら

BTS の「Dynamite」を聴き「これは自分で歌うとなると難しいぞ」と思った。BTSCOVERNEWSWEEK.png

サビの出だしがちょっとトリッキーな音から始まり、4つ打ちと言われるディスコビートに一拍ずつ音を乗せて下がっていく。そのノリで男性の声にしてはかなり高いキー、裏声と地声を頻繁に行ったり来たりしなければいけない。

だが実際の彼らはなんだか楽しそうに、楽に歌っているふうに聞こえる。このサビのフレーズは誰かにつぶやくように始まったのかもしれないと、ふと思った。大事な友達がインスタグラムのストーリーに載っけたメッセージ、24時間で消えちゃうみたいな儚いもの。

しかし今どきのSNSは世界へオープンだから、あちこちに共感する仲間が増えていく。「いいね!」の小さな声はやがて大きなクラップ(手拍子) へ。「Dynamite」にはそんな、コロナ禍の時期を経てたどり着くアーティストと聴き手との間の物語が見える。クラッピングが入りピアノの厚みが増し、コーラスで一気に広がり今度は長めのサビへ。

BTSはこの「Dynamite」で名実共に世界に認められたが、有名人である前に彼らも一人の人間なわけで、ソーシャルメディアを通して「ARMY(アーミー)のみんなと一対一で向き合う」姿勢でいる。

その率直さがいい。このリアルタイムでの聴き手とのキャッチボールこそが、争いや不安が広がる世界で、言語を超え「国境のない地図」に新しい絵の具を塗っているのだろう。

そもそもKポップは国内だけで収まらず世界とつながろうとする傾向があったように思う。音楽メジャーが考えるPRとは違うやり方で外国へ出て、草の根作戦で挑戦する。その発想はいま多くのニューヨーカーを楽しませているコリアンフードなどにも如実に表れている。

コリアンの友人の「僕らは母国には帰らない。その覚悟でアメリカに来ている」という言葉が今も脳裏から離れない。BTSが移住するかは分からないが、志は同じだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中