最新記事

地熱

地下20キロまで掘削、深部地熱を活用する技術の開発がすすめられている

2022年3月25日(金)18時00分
松岡由希子

摂氏約500度の地下20キロまで超深度掘削できる新しい掘削装置の開発をすすめている...... Quaise

<地熱発電は2015年時点で世界全体の発電電力量のわずか0.3%。しかし、深部地熱を活用しようとするベンチャーに資金が集まる......>

地熱は再生可能エネルギーのひとつだが、太陽光や風力などに比べて活用がすすんでいない。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、地熱発電は2015年時点で世界全体の発電電力量のわずか0.3%だ。

地熱資源が豊富な日本でも国内の電力需要の約0.2%を賄うにとどまっている。

地表近くに地熱発電に適した高温の岩体がある場所は限られているが、地下200キロには深部地熱が潤沢に広がっており、地球のどこからでも地熱を得られる。地下深く掘削するうえで課題となるのが、摂氏180度を超える高温環境で岩体を砕かなければならないという点だ。

摂氏約500度の地下20キロまで掘削できる新しい装置

米マサチューセッツ工科大学(MIT)プラズマ科学・核融合センター(PSFC)から2018年に分離独立したスタートアップ企業クエイズ・エナジーは、既存の掘削技術と核融合研究を組み合わせ、摂氏約500度の地下20キロまで超深度掘削できる新しい掘削装置の開発をすすめている。

この掘削装置は、磁場に沿って高速で回転する電子の運動をエネルギー源としてミリ波帯電磁波を発振させる真空管「ジャイロトロン」を用いているのが特徴だ。「ジャイロトロン」はこれまで主に核融合でのプラズマ加熱に利用されてきた。

クエイズ・エナジーでは、まず、従来の回転掘削で地下の岩体を掘りすすめ、さらに「ジャイロトロン」を使ってミリ波帯電磁波を発生させ、これによって岩を溶かして気化させながら地下20キロまで到達できると考えている。

投資を呼び込む、深部地熱

深部地熱へのアクセスを実現し、再生可能エネルギーへの転換を促すクエイズ・エナジーの技術は、多くの投資を呼び込んでいる。2020年6月に600万ドル(約7億800万ドル)の資金調達に成功した後、2021年8月に1200万ドル(約14億1600万ドル)、2022年2月には4000万ドル(約47億2000万円)を相次いで調達した。

クエイズ・エナジーでは2024年までにこの掘削装置を完成させ、2026年に100メガワットの地熱発電システムを構築する計画だ。2028年以降、既存の石炭火力発電所の地熱発電所への転換をすすめていく。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

補正予算案が衆院通過へ、予算委で可決 16日にも成

ビジネス

米アメックス、感謝祭週の国内小売支出が9%増加=C

ビジネス

午前の日経平均は続落、朝高後に軟化 ソフトバンクG

ビジネス

米経済金融情勢の日本経済への影響、しっかり注視=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中