最新記事

医療

ブタからヒトへの「心臓移植」を成功させた医師本人が語る、医療技術と生命倫理

“I Transplanted a Pig Heart”

2022年2月18日(金)12時31分
バートリー・グリフィス(メリーランド大学医学大学院外科教授)
手術室

移植手術を担当したメリーランド大学医学大学院の医療チーム UNIVERSITY OF MARYLAND SCHOOL OF MEDICINE

<遺伝子技術のおかげで進化を続ける臓器移植が新たな段階に。世界初の成功例が問い掛ける医療の意味と倫理>

私は心臓外科医になって40年になる。高校を卒業する頃、世界初の心臓移植手術が南アフリカで実施された。その後、数多くの事例が続き、地元の米ペンシルベニア州ピッツバーグでも1件行われた。本当に素晴らしいことだと思った。

ピッツバーグは最新の医薬品に支えられ、アメリカ国内で最も多く心臓移植を手掛けていた。当時の勤務先のピッツバーグ大学には、肝移植の権威である外科医のトーマス・スターズル教授がおり、大半の人がこれ以上はできないと見なすことでも実現可能だと思わせてくれた。

スターズルが執刀したヒヒからヒトへの肝移植手術を目にする機会があり、動物の臓器をヒトに用いる「異種移植」のことは何年も前から知っていた。この分野では、動物バイオテクノロジーを活用した米医療テック企業リビビコールが適合性の問題を解決する取り組みを進めてきた。

異種移植に本格的に携わり始めたのは5年前。メリーランド大学医学大学院に着任したムハマド・モヒウディンというパートナーを得てからだ。

モヒウディンは既に、3つの遺伝子編集を実施したブタの心臓をヒヒに移植する実験を行っていた。自ら開発した極めて専門的な免疫抑制プロトコルの下、2頭のヒヒを長期間生存させることに成功し、うち1頭は3年間生きた。

今や、ブタの心臓では10の遺伝子編集が実現している。ブタの遺伝子は10万個に上るが、10個を操作するだけで、思いがけない結果が得られる。

ブタからヒヒへの移植に成功

より新しい技術のおかげで、現在では遺伝子の削除や挿入が可能だ。私たちのグループは数年前から、遺伝子操作したブタの心臓のヒヒへの移植を達成してきた。

昨年11月27日、私が率いる心臓外科ICU(集中治療室)に、患者のデービッド・ベネットが移送されてきた。

デービッドは心機能の改善を目的に3種の薬の静脈内投与を受けており、心臓の効率を上げるために動脈内バルーンポンプも挿入されていた。だが突然、心臓が鼓動せずに震える状態に陥った。こうなると全身に血液を送れなくなり、心不全が起きる。

デービッドはまだ57歳で、全般的に比較的安定しているようだったので、心臓移植の候補者認定を早められないかと検討を始めた。しかし、大きな障害があった。デービッドは医師の指示を守らない患者との記録があり、ヒトからの心臓移植に求められる基準を満たしていなかったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ原油、米に無期限供給へ 制裁も緩和か=報

ワールド

米、ロシア船籍タンカー拿捕 ベネズエラ原油「封鎖」

ワールド

米、ベネズエラ産原油の供給再開模索 トランプ氏9日

ビジネス

米ADP民間雇用、12月は4.1万人増 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじゃいる」──トランプの介入口実にデンマーク反発
  • 4
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが…
  • 5
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 6
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 7
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 8
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 9
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 10
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 10
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中