最新記事

世界経済

コロナによる「経済危機」は、むしろ社会的弱者に「恩恵」をもたらした

WHY THE PANDEMIC MIGHT NOT BOOST INEQUALITY

2022年1月12日(水)11時08分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
労働者募集の看板

労働者不足は深刻化(米フロリダ州のレストラン) MARCO BELLOーREUTERS

<コロナ危機の当初は格差が拡大すると見られていたが、今になって見返すと手厚い保障もあって格差拡大傾向が反転する兆候も>

新型コロナのパンデミックが急拡大し、多くの人々がロックダウンを強いられた2020年春に経済は深刻な不況に陥り、低スキル労働者やマイノリティーの人々が特に打撃を受けた。さらに過去の不況とは対照的に、失業は女性が多い職種に集中し、「shecession(女性不況)」との言葉も生まれた。

そのため、当初の兆候から読み取れたのは、パンデミックの影響で格差が悪化するだろうとの見通しだ。だがその後2年を見る限り、必ずしもそんな状況にはなっていない。

まず、失業や休業などが所得にもたらす悪影響は、ほとんどの先進国では過去最大級の政府支援策で相殺された。アメリカでは多くの世帯に小切手が直接給付され、欧州諸国は雇用を守るため企業を助成した。

こうした対策のおかげで、パンデミック初期の失業が所得低下につながることはなかったようだ。さらに、最も失業リスクの高い層は最も手厚い政府支援を得られた。

結果として、可処分所得を基にした格差指標は悪化していないばかりかわずかに改善している部分もある。アメリカで所得格差を示すジニ係数は20年には非常に大きかったものの、その後拡大はしていない。

この傾向はヨーロッパも同様で、ドイツ、フランス、イタリア、スペインのEU4大国では20年1月からの1年間で所得格差がむしろ縮小したとの研究もある。

格差拡大傾向に反転の兆候が

こうした結果から見えるのは、前代未聞の経済危機から社会的弱者を守る上で、政府が最後のとりでとしての保険事業者の役割を果たし得るという事実だ。だが、アメリカに比べてヨーロッパの経済回復はまだ段階的であるにもかかわらず、政府は支援策を縮小しつつある。これにより、パンデミック以前の格差拡大が再燃するのだろうか。

ここでもやはり、現実はその逆であり、以前の格差拡大傾向はパンデミック後の世界でむしろ反転しそうな兆候が見えている。「女性不況」はせいぜい3~6カ月程度しか継続していないし、(付加価値に占める人件費の割合を示す)労働分配率は20年、21年ともに上昇している。労働分配率は長期にわたって低下してきたが、原因については諸説あった。だが近年の上昇の原因はシンプルで、労働者不足の一言に尽きる。

盛んに唱えられている「ビルド・バック・ベター(より良い再建)」という言葉にも語弊がありそうだ。コロナ禍はいかなる資本も損なわず、単に短期間の機能停止状態をもたらしただけだった。それ故、回復には新たな資本は必要なく、既にあった資本を再配置すればよいだけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中