最新記事

宇宙探査

歴史上初めて、探査機が太陽に「触れた」

2021年12月16日(木)17時30分
松岡由希子

太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブがコロナに入ったときのイメージ NASA's Goddard Space Flight Center/Joy Ng

<2018年8月に打ち上げられたNASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が、コロナに入り、太陽に「触れた」ことが報告された>

アメリカ航空宇宙局(NASA)によって2018年8月12日に打ち上げられた太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は、2021年4月、太陽の上層大気であるコロナに初めて到達した。2021年12月14日、学術雑誌「フィジカル・レビュー・レターズ」で報告されている。

<参考記事>
太陽コロナに触れる探査機、熱で溶けない4つの理由へ
太陽に接近し、観測データを送り続ける探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」

5時間にわたってコロナに入った

太陽には、地球のような固体表面がなく、重力と磁力によって太陽と結合した物質からなる超高温の大気に覆われており、太陽から遠のくにつれて「太陽風」と呼ばれるプラズマの流れになる。この太陽大気と太陽風との境を「アルヴェン境界面」といい、太陽表面から10~20太陽半径(約700~1400万キロ)の間に位置すると推定されている。

「パーカー・ソーラー・プローブ」は、4月28日9時33分(世界時)、8回目の接近観測で、太陽表面から18.8太陽半径(約1316万キロ)の地点に達した。その磁場や粒子の観測データから、5時間にわたって「アルヴェン境界面」を超え、コロナに入ったことが確認されている。

wispr_image.jpg

パーカー・ソーラー・プローブがコロナ内で撮影 NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory


また、「パーカー・ソーラー・プローブ」は、この接近観測で、複数回にわたってコロナを出入りした。これはすなわち「アルヴェン境界面」はなめらかな球状ではなく、表面にしわが寄ったような起伏があることを示すものだ。

そして、約15太陽半径(約1050万キロ)まで接近したところで、太陽表面の上に大きく浮かび上がるコロナ特有の構造「疑似ストリーマ」とも遭遇した。「疑似ストリーマ」の内部は周囲の太陽大気よりも穏やかで、磁場は整然としていた。

「太陽に"触れた"ことは歴史的な出来事だ」

「パーカー・ソーラー・プローブ」は、太陽風の磁場の方向が反転する「ソーラースイッチバック」の現象も観測している。観測データでは、光球(輝いて見える太陽の表面)が「スイッチバック」の発生場所のひとつであることが示された。

NASA科学ミッション部門(SMD)のトーマス・ザブーケン副長官は「『パーカー・ソーラー・プローブ』が太陽に"触れた"ことは歴史的な出来事であり、実に素晴らしい偉業だ」と大いに称え、「太陽の進化や太陽系への影響についてより深い洞察を与えるのみならず、宇宙の他の星々においても示唆に富んでいる」と高く評価している。

「パーカー・ソーラー・プローブ」は、2022年1月に予定されている次回の接近観測で再びコロナに入り、太陽表面から8.86太陽半径(約620万キロ)の地点を目指す。

NASA's Parker Solar Probe Touches The Sun For The First Time


 Parker Solar Probe--Mission Overview

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECBは「良好な位置」、物価動向に警戒は必要=理事

ビジネス

米製造業PMI、11月は51.9に低下 4カ月ぶり

ビジネス

AI関連株高、ITバブル再来とみなさず =ジェファ

ワールド

プーチン氏、米国のウクライナ和平案を受領 「平和実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中