最新記事

朝鮮半島

韓国と北朝鮮の「軍拡最前線」 両国の兵器展示会の示す違いは

2021年10月17日(日)09時59分
兵器展示会を訪れた北朝鮮の金正恩総書記

北朝鮮で10月11日、兵器を展示する「国防発展展覧会」が開幕した。韓国が最新兵器などを集めて19日から開く「ソウル国際航空宇宙・防衛産業展示会」(ADEX)の直前のタイミングでの開催で、北朝鮮がこうした展示会を催すこと自体、非常にまれだ。写真は、展示会で説明する北朝鮮の金正恩氏。平壌で12日撮影された、同国国営の朝鮮中央通信社(KCNA)による提供写真(2021年 ロイター)

北朝鮮で11日、兵器を展示する「国防発展展覧会」が開幕した。韓国が最新兵器などを集めて19日から開く「ソウル国際航空宇宙・防衛産業展示会」(ADEX)の直前のタイミングでの開催で、北朝鮮がこうした展示会を催すこと自体、非常にまれだ。2つの兵器展示会は、すでにかなりの軍事力を持つ両国による軍備拡張の最新動向を示すものでもある。

「私を忘れるな」

北朝鮮がこの時期に展示会を開催するのは、軍拡競争が激化する中、兵器展示で韓国を出し抜くのも狙いではないかと専門家は指摘する。

韓国航空宇宙学会の元会長、チョ・ジンス氏は「北朝鮮はタイミングを狙いすまして展示会を開催したに違いない。韓国が自国の兵器システムを海外に売り込むために予定しているADEXの前に開催時期を設定し、国際社会の目を引き付けるのが狙いだ」と分析。「北朝鮮は兵器を売るために韓国の展示会に便乗し、『私を忘れるな』というメッセージを発信している」という。

ADEXは2009年以来、2年に1度開催されている。北朝鮮の兵器展示会の開催は、事前に発表されなかった。

北朝鮮の軍事能力に詳しいジュースト・オリエマンズ氏は「今回の展示会開催にはさまざまな事情があったと考えられる」とした上で、「重要なのは、両国が緊張と対立の再燃に備えているという背景だ」とみている。

兵器披露と指導者の偶像化

2つの兵器展示会は表面的には似通っており、開催時期も近接している。しかし内容はかなり異なる上、同じ顧客の獲得を競っているわけでもない。

国際戦略研究所のジョセフ・デンプシー氏は、通常は軍事パレードで武器を誇示する北朝鮮が各兵器のデータを記したカードを完備した展覧会の実施を決断したことは「非常に珍しい」ことだと指摘する。

同国は核開発問題で制裁を受けているほか、新型コロナウイルス感染を防ぐために国境を閉鎖している。国営メディアによると同国の展示会を訪れているのは国内の関係者だけで、国外の主要な代表は来ていない。

北朝鮮情勢を分析している「38ノース」プロジェクトのアナリスト、レイチェル・ミニョン・リー氏によると、展示会は金正恩総書記の絵などが飾られており、新兵器のお披露目とともに、指導者の偶像化も目的だ。

緊張緩和外交の側面も

一方の韓国のADEXは、主催者の発表によると28カ国から企業440社が参加し、45カ国から国防相など約300人の軍事・防衛関係者が訪れる予定。水素を燃料とするドローン、バーチャルリアリティー(仮想現実)を利用した訓練システム、レーザー兵器、多目的無人車両など、韓国の最新の防衛技術が紹介される。専門家によると、目玉は次世代戦闘機KF-21の試作機などだ。

世界各地で航空宇宙・防衛関連の展示会を手掛けるカルマン・ワールドワイドによると、ADEXの背景には、北朝鮮による「核の脅威」と、その緊張を外交によって和らげようとする取り組みがある。ゆえにADEXは「特別な緊急性と関心を帯びているという特殊性がある」という。

韓国は近年、国防予算を大幅に増額している。北朝鮮に対抗するとともに、米国の支援からも脱却し、さらには軍事輸出産業を拡大するのが狙いだ。国防省は2022年の国防予算として、前年比4.5%増の55兆2300億ウォン(476億ドル)を求めている。

(Josh Smith記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中