中国恒大・債務危機の着地点──背景には優良小学入学にさえ不動産証明要求などの社会問題
債務危機にある中国恒大集団 Aly Song-REUTERS
中国恒大集団の債務危機が連鎖拡大するのではないかという不安が世界に広がっている。習近平が描いているであろう着地点を考察するとともに、中間層がなぜ不動産獲得にここまで狂奔するのか、社会背景を読み解く。
中間層が不動産購入に狂奔する理由「その1」:入学時に要求される不動産証明書
江沢民時代からリーマンショック直後あたりまでは、党幹部などを含む富裕層が投機的に不動産を購入する傾向が強く、不動産価格の高騰を煽ってきた。中間層が増えるにしたがってディベロッパーは「今買わないと来年にはもうこの値段では買えませんよ」と消費者心理を煽り、不動産購入層は中間層へとシフトしていった。
その最大の原因が優良な公立小学校に入学するときさえ「不動産所持証明書」が要求されるという事実を知っている人は少ないだろう。
2014年まで中国では義務教育である小学校も中学校(初等中学=初中)も入学試験があり、優良な小学校に入るためには学校側に賄賂を渡す習慣が常識化していた。学校側は心得たもので、多少入試成績が悪くても賄賂が多ければ手心を加え、公立だというのに肥え太っていった。
金を集めるためには良い教師がいなければならない。
教師の一本釣りも流行り、一流の小学校に入れない者は「一流の塾」に法外な授業料を払って、14億人が「高学歴」へと突進していったのである。
試験があるために賄賂が動くという「腐敗構造」が義務教育である公立小学校にさえ存在することに対して、反腐敗運動に出ていた習近平は「義務教育入学時の試験を撤廃せよ」という通達を2014年に発布し、住んでいる場所によって入学する小学校や中学を決める「学区域制」にした。
ところが、上に政策あれば下に対策あり。
ならば、入試は免除するが、その代わりに入学審査は「不動産保有の有無によってランク付けしていく」という、信じがたい手に出始めたのだ。
たとえば2021年における<上海市嘉定区義務教育入学生募集実施意見>をご覧いただければわかるように、2014年9月1日から2015年8月31日までに生まれた満6歳の学齢期児童から、「不動産証明」を提出した者を優先的に入学させるというランク付けによって選抜することになったのである。
これは各地区によって異なるが、中国は都市を第一線都市(大都会)、第二線都市、第三線都市......とランク付けしており、第一線あるいは第二線くらいまでは、こういった状況にあると考えていいだろう。