キューバ「カリブの春」が独裁を打倒するのに、決定的に欠いているもの
Cuban Revolution via the Web
ドミニカの首都サントドミンゴのコロンブス像の前で、キューバ政府への抗議を訴えるキューバ系住民たち RICARDO ROJAS-REUTERS
<アメリカの「裏庭」でついに起きた全国デモ、「カリブの春」到来に見えるがネット頼みの活動には限界が>
7月11日の日曜だった。やや時代遅れの3G通信網でつながったキューバ市民が国中で一斉に街頭へ繰り出し、抗議の声を上げた。長年にわたる政治的抑圧と自由の剝奪から、最近の食料・医薬品不足、さらには新型コロナウイルスの感染拡大まで、不満は山ほど積み上がっていた。
結果は、まず予想どおり。国家評議会を率いるミゲル・ディアスカネル議長(61)は国営テレビに姿を現し、昔ながらの流儀で抗議の市民を「反革命分子」と決め付け、アメリカ政府に操られた「虫けら」と罵倒した。
カストロ兄弟の後を継いだディアスカネルはハイテク好きでモダンな男とされていたが、危機管理の手法は旧態依然。全国の革命家(つまり政府支持者)に「街頭へ出よ、まさに戦闘の命令は下された!」と呼び掛け、デモ隊を排除させたのだった。
この日の同時多発的な反政府デモに関して外国メディアが報じたのは、権力に対する恐れを捨てて「自由」や「独裁政権打倒」を公然と叫ぶ市民の姿だった。しかし、今なぜ人々が立ち上がったのか、どうしてそれが可能だったのか、そもそも何が問題なのかを正しく理解するには、街頭での抗議活動だけでなく、サイバー空間での市民の活動に目を向ける必要がある。
政府がメディアを牛耳る国
欧米の先進諸国では、今どきインターネットが「民主化」や「革命」の道具になると言っても笑われるだけだろう。現実にはひと握りの巨大IT企業がネット空間を支配し、ひたすらユーザーの個人情報を収集して金儲けに使い、フェイクニュースがばらまかれて社会が分断されても知らぬ顔。そういう状況に、みんな気付いている。
だがキューバのように政府がマスメディアを独占し、報道機関を政治宣伝の具としてきた国では事情が異なる。検閲と無縁な情報交換を可能にするSNSの普及は、政府と国民の力関係を変える劇的なチャンスとなり得る。
そう、フェイスブックやツイッターに代表されるSNSだ。欧米でこそ、こうした巨大SNSは今や自己満足の自撮り写真やワクチンに関する有害な偽情報を拡散させて社会を堕落・混乱させる存在と見なされているが、キューバのような国では国営メディアを通さないディレクタス(直接送達)、つまりストリーミングによる動画のライブ配信を可能にするメディアとして重要な役割を果たしている。その証拠が11日のデモだ。