最新記事

キューバ

キューバ「カリブの春」が独裁を打倒するのに、決定的に欠いているもの

Cuban Revolution via the Web

2021年7月22日(木)15時28分
テッド・ヘンケン(ニューヨーク市立大学准教授)
ドミニカの首都サントドミンゴで抗議するキューバ系住民

ドミニカの首都サントドミンゴのコロンブス像の前で、キューバ政府への抗議を訴えるキューバ系住民たち RICARDO ROJAS-REUTERS

<アメリカの「裏庭」でついに起きた全国デモ、「カリブの春」到来に見えるがネット頼みの活動には限界が>

7月11日の日曜だった。やや時代遅れの3G通信網でつながったキューバ市民が国中で一斉に街頭へ繰り出し、抗議の声を上げた。長年にわたる政治的抑圧と自由の剝奪から、最近の食料・医薬品不足、さらには新型コロナウイルスの感染拡大まで、不満は山ほど積み上がっていた。

結果は、まず予想どおり。国家評議会を率いるミゲル・ディアスカネル議長(61)は国営テレビに姿を現し、昔ながらの流儀で抗議の市民を「反革命分子」と決め付け、アメリカ政府に操られた「虫けら」と罵倒した。

カストロ兄弟の後を継いだディアスカネルはハイテク好きでモダンな男とされていたが、危機管理の手法は旧態依然。全国の革命家(つまり政府支持者)に「街頭へ出よ、まさに戦闘の命令は下された!」と呼び掛け、デモ隊を排除させたのだった。

この日の同時多発的な反政府デモに関して外国メディアが報じたのは、権力に対する恐れを捨てて「自由」や「独裁政権打倒」を公然と叫ぶ市民の姿だった。しかし、今なぜ人々が立ち上がったのか、どうしてそれが可能だったのか、そもそも何が問題なのかを正しく理解するには、街頭での抗議活動だけでなく、サイバー空間での市民の活動に目を向ける必要がある。

政府がメディアを牛耳る国

欧米の先進諸国では、今どきインターネットが「民主化」や「革命」の道具になると言っても笑われるだけだろう。現実にはひと握りの巨大IT企業がネット空間を支配し、ひたすらユーザーの個人情報を収集して金儲けに使い、フェイクニュースがばらまかれて社会が分断されても知らぬ顔。そういう状況に、みんな気付いている。

だがキューバのように政府がマスメディアを独占し、報道機関を政治宣伝の具としてきた国では事情が異なる。検閲と無縁な情報交換を可能にするSNSの普及は、政府と国民の力関係を変える劇的なチャンスとなり得る。

そう、フェイスブックやツイッターに代表されるSNSだ。欧米でこそ、こうした巨大SNSは今や自己満足の自撮り写真やワクチンに関する有害な偽情報を拡散させて社会を堕落・混乱させる存在と見なされているが、キューバのような国では国営メディアを通さないディレクタス(直接送達)、つまりストリーミングによる動画のライブ配信を可能にするメディアとして重要な役割を果たしている。その証拠が11日のデモだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対

ビジネス

デフレ判断の指標全てプラスに、金融政策は日銀に委ね

ワールド

米、途上国の石炭からのエネルギー移行支援枠組みから

ビジネス

トランプ氏、NATO加盟国「防衛しない」 国防費不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中