最新記事

中国

米中アラスカ会談──露わになった習近平の対米戦略

2021年3月22日(月)15時30分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
米中外交トップ会談(アラスカ)

アラスカで開催された米中外交トップ会談(2021年3月18日) Frederic J. Brown/Pool via REUTERS

米中外交トップ会談冒頭で激しい応酬があったが、米中ともに「満足」という結論に達した。背後には、今年が中国共産党建党100周年と屈辱の北京議定書120周年に当たるため、習近平の野望と周到な戦略がある。

異常な中国側の長時間反論

3月18日から19日にかけてアラスカのアンカレッジで開催された米中外交トップによる会談に、アメリカ側からはブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)が出席し、中国側からは楊潔チ中共中央政治局委員(兼中央外事工作委員会弁公室主任)と王毅外相(国務委員)が出席した。

冒頭、各自2分間ずつほど話して、それから記者は退場することになっていた。

最初に話したのはホスト国アメリカのブリンケンである。

彼は「新疆ウイグル・香港・台湾・(対米)サイバー攻撃および(アメリカの)同盟国に対する経済的強圧など、中国の行動に対する我々の深い懸念についても話し合いたい」と攻撃の口火を切った。時間は2分半ほど。米側通訳を入れると6分ほどになった。次にサリバンが「世界中の同盟国や友好国から懸念を聞いている」と、「対中包囲網」を示唆した。

さて、対する中国側の反論。

もちろん先に口を開いたのは楊潔チだ。これがなんと、延々20分近くも続いたのである。正確に計れば16分半くらいだが、途中で通訳を入れることなく、まるで全人代か党大会におけるスピーチのように、中国建国時の歴史まで話し始めた。

「今年は第14回五ヵ年計画を発表したばかりだが、中国の五ヵ年計画は1952年に始まり・・・」と、ゆったりした口調で話し出したので、「何ごとか?」と逆に画面にクギ付けになった。

しかし助走段階が終わると、だんだん語調に力が入り、凄まじい反論を展開し始めて、通訳の入る余地がなかった。

16分ほど過ぎたあたりで中国側の通訳が「通訳しましょうか」と言うと楊潔チは「その必要があるのかい?」と聞き返した(公用語は中国語で十分ではないか、を示唆)。通訳が「いや、やっぱり・・・」と返すと「ならテストしようか」と笑い返し、中国側が英語に通訳した。

次に王毅が4分ほど話し、本来なら4人各自が「冒頭の挨拶」をしたら記者たちが出ていくことになっていたが、ブリンケンが記者たちの退場を止めた。言われっぱなしの状態で報道されるのは困ると思ったのだろう。

ブリンケン、サリバンが二度目の発言をしたところで記者が退場しようとすると、今度は中国側が止めて、さらに楊潔チ、王毅の発言になった。

公けの場で激しい反論の応酬を見せたのは、前代未聞であったかもしれない。何よりも中国がアメリカに対してここまで面と向かって反論をぶちまけたのは、歴史的にも珍しいことではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中