最新記事

サイエンス

やはり、脳と宇宙の構造は似ている......最新研究

2020年11月20日(金)12時00分
松岡由希子

マウスの脳内の神経細胞(ニューロン)の画像と宇宙をシミュレーションした画像 YouTube

<宇宙網と脳の自己組織化は、同様のネットワーク力学の原理によって形成されている可能性がある、との研究が発表された......>

ヒトの脳は宇宙と類似性があるのかもしれない......。マウスの脳内の神経細胞(ニューロン)の画像と宇宙をシミュレーションした画像を並べた2006年8月14日付の米紙ニューヨーク・タイムズの記事は、世界中で話題となった。そしてこのほど、その類似性が定量分析によって裏付けられた。

小脳の約690億個の神経細胞と1000億個の銀河

伊ボローニャ大学の天体物理学者フランコ・バッツァ准教授と伊ヴェローナ大学の脳神経外科医アルベルト・フェレッティ准教授の研究チームは、宇宙学と神経外科学の観点から定量分析を行い、銀河がつながる水素ガスの大規模構造の宇宙網とヒトの脳の神経回路網(ニューラルネットワーク)を比較した。

2020年11月16日にオープンアクセスジャーナル「フロンティア・イン・フィジックス」で公開された研究論文によると、両者にはその規模に27桁以上もの違いがあり、その構造がもたらされた物理的プロセスも本質的に異なっているものの、両者の構造には、同様の複雑性と自己組織化が認められたという。

ヒトの小脳には約690億個の神経細胞(ニューロン)があり、観測可能な宇宙には少なくとも1000億個の銀河があるが、神経細胞や銀河が脳や宇宙全体の質量に占める割合は3割にも満たない。脳の77%は水、宇宙の73%は暗黒物質(ダークマター)でできている。また、神経細胞も銀河もフィラメント(細かい糸状の構造)を介して互いに接続し、自己組織化されている点も類似している。

研究チームは、ヒトの大脳皮質および小脳と宇宙網のシミュレーションを画像で定量的に比較した。

0b462874c05e16.jpg

シミュレートされた宇宙網の物質分布(左)と小脳で観測された神経体の分布(右)

「同様のネットワーク力学の原理によって形成されている可能性がある」

宇宙学で銀河の空間分布を分析する際に用いる「スペクトル密度」を計算すると、小脳の揺らぎ分布は1〜100ミクロンであった一方、宇宙網の揺らぎ分布は500万〜5億光年であった。両者の規模には大きな違いがあるものの、相対的な揺らぎ分布は類似している。

matuoka119c.jpg

銀河(左)と小脳の神経網(右)の比較

また、1個の神経細胞や銀河に接続するフィラメントの本数も近似している。3800〜4700のサンプルをもとに宇宙網を分析したところ、各銀河には平均3.8〜4.1本のフィラメントが接続していた。一方、1800〜2000のサンプルをもとに大脳皮質を分析すると、各神経細胞に接続するフィラメントは平均4.6〜5.4本であった。

研究論文では、一連の研究結果をふまえ、「宇宙網と脳の自己組織化は、同様のネットワーク力学の原理によって形成されている可能性がある」と結論づけている。


The Universe Appears To Be a Lot Like the Human Brain

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中