最新記事

ワクチン開発

「画期的」ワクチン発表のファイザーが、トランプ資金を受け取らなかった理由

Why Pfizer Avoided R&D Funds From Trump's Operation Warp Speed

2020年11月10日(火)14時50分
エミリー・チャコール

コロナ禍の収束に向けてワクチン開発に期待がかかる(写真はイメージ)REUTERS/Dado Ruvic/Illustration

<科学者たちを「政治的な圧力」から守るために米政府の補助金は受けず、研究開発費は全額自社で賄ったという資金力と矜恃>

新型コロナウイルスのワクチン開発に期待がかかる米製薬大手ファイザーは11月9日、ワクチンの開発にあたって、米ドナルド・トランプ政権が推し進める「ワープ・スピード作戦」からの助成金は受け取っていないことを明らかにした。

ワープ・スピード作戦は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃にトランプ政権が発足させた、ワクチン開発・供給の迅速化を図るための計画。契約企業と協力の上、2021年1月までに安全かつ効果的なワクチンを開発し、3億回分の供給をめざす内容だ。

ファイザーは同計画の下、少なくとも1億回分のワクチンを約20億ドルで政府に供給することに同意しているが、研究開発費については自社で賄っていると強調した。

同社の広報担当者は9日、本誌に宛てた声明の中で、「ファイザーはワープ・スピード作戦の協力企業の一員として、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のワクチン供給を目指していることを誇りに思っている」とした上で、次のように述べた。「当社は政府との間で、前払いでワクチンを提供することに合意しているが、米生物医学先端研究開発局(BARDA)からの研究開発のための資金提供は受けていない」

外部からの圧力にさらされないために

ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は9月、CBSニュースのインタビューに応じ、研究開発のための資金提供を受けなかった理由について、科学者たちを政治的圧力から「解放する」ためだと語っていた。

ワープ・スピード作戦の一環としてBARDAから資金提供を受けることができるのに、なぜファイザーは自らリスクを負って研究開発費を負担したのか。ブレナンからのこの質問に、ブールは次のように答えた。

「新型コロナウイルスのワクチン開発に、当社は少なくとも15億ドルを投じている。開発がうまくいかなかった場合、それで会社が潰れることはないだろうが、痛手であることは確かだ。それでも資金提供を受けないことにしたのは、当社の研究員たちが一切、政治に縛られないようにしたかったからだ」

ブーラはブレナンに、研究員たちが「科学的な挑戦」だけに集中できる環境を確保し、ファイザーとして外部からの介入や監視にともなう圧力にさらされることなく、ワクチンの開発を進めたかったとも語った。

「第三者から資金提供を受ければ、そこには必ず条件がついてくる。彼らは私たちの開発の進捗状況を確認したがり、今後の計画を知りたがる。報告を求めてくる」と彼は述べ、こう締めくくった。「それに、ファイザーが政治に巻き込まれるのを避けたかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

石破首相、自動車メーカーと意見交換 感謝の一方で更

ビジネス

みずほFG、純利益予想1兆円超に上方修正 三井住友

ワールド

ミャンマー、総選挙実施へ委員会設置 軍トップが主導

ビジネス

日米関税合意「大きな前進」、見通し実現していけば利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中