最新記事

非常に珍しい、右側がオスで左側がメスの鳥が発見される

2020年10月9日(金)17時50分
松岡由希子

右半身がオス、左半身がメスとみられるムネアカイカルが発見された...... (Annie Lindsay)

<ペンシルベニア州のパウダーミル自然保護区で、非常に珍しい、右半身がオス、左半身がメスとみられるムネアカイカルが発見された...... >

米カーネギー自然史博物館(CMNH)傘下のパウダーミル鳥類研究センター(PARC)は、2020年9月24日、ペンシルベニア州南西部ウェストモアランド郡レスターにあるパウダーミル自然保護区で、右半身がオス、左半身がメスとみられるムネアカイカルを発見した。

遺伝子的に右側がオス、左側がメスの「雌雄モザイク」

ムネアカイカルは、性別によって体の大きさや色彩など、個体の形質が異なる「性的二形」であり、オスとメスで羽の色が異なる。このムネアカイカルは、右側の翼の内側がピンクで、右胸に斑点がみられ、右翼の羽が黒い一方、左側の翼の内側は黄色で、翼の羽は茶色い。

つまり、このムネアカイカルは、オスの特徴とメスの特徴が明らかな境界をもって混在する「雌雄モザイク」であり、おおむね体の中心を境界として、遺伝子的に右側がオス、左側がメスであるとみられている。

matuoka1009c.jpg

(Powdermill Nature Reserve Facebook)


matuoka1009b.jpg

(Powdermill Nature Reserve Facebook)

雌雄モザイクは、鳥類のほか、爬虫類やチョウでも確認されているが、非常に稀だ。パウダーミル鳥類研究センターでは、1962年以来、パウダーミル自然保護区で年間およそ1万3000羽の鳥類標識調査を実施しているが、これまでの調査記録を蓄積したデータベースで、雌雄モザイクの鳥の記録は10件に満たない。

鳥類標識調査プログラムのマネージャーを務めるアニー・リンジーさんは「調査チームはみな、この希少な個体との出会いに興奮し、生涯一度の経験を味わっている」と、今回の発見に対する驚きと喜びを語っている。

左側の卵巣で、子どもを産むことが可能?

雌雄モザイクの仕組みについては、完全に解明されていない。2010年に学術雑誌「ネイチャー」で発表された研究論文では「2つの精子が2つの核を持つ卵子と同時に受精し、これらの核が別々に分裂しはじめて、それぞれが独自の性別を持ち、一方がオスの染色体、他方がメスの染色体を発現する」との説を示している。

雌雄モザイクの鳥の繁殖能力の有無についても、まだ明らかになっていない。一般に、鳥は左側の卵巣のみが機能する。今回発見された雌雄モザイクのムネアカイカルは、左側がメスであることから、理論上は、オスと交尾できれば、子どもを産むことが可能なのではないかとみられている。

また、このムネアカイカルが繁殖できるかどうかは、オスのように鳴き、他のメスを惹き付けたり、他のオスの縄張り宣言を促すことができるかにもよる。

2003年の研究論文では、雌雄モザイクのキンカチョウがメスの周りでオスのように鳴いたことが示されたほか、2017年6月から7月にかけて雌雄モザイクのワキアカトウヒチョウの繁殖行動が確認されているが、このムネアカイカルについては、今後、さらなる観察と研究が必要だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中