最新記事

亡命

母国送還かコロナ感染か 米収容所の亡命希望者が突きつけられる残酷な選択

2020年7月14日(火)11時25分

写真は亡命を申請していたグアテマラのティモテオ・ビンチェンテさんの妻。ビンチェンテさん3月に亡命却下の裁定を受けたが、控訴しないことを選択した。理由の1つは、ワシントン州タコマのICE移民手続センターにおける医療体制が不十分で不安を感じるようになったからだ。6月29日、タコマのICE移民手続センター前で撮影(2020年 ロイター/Lindsey Wasson)

6月初め、亡命申請中のホセ・ムノスさんは、逃げ出さなければ命が危ない、と心に決めた。収容者のあいだで新型コロナウイルスが広がるテキサス州の移民収容センターを離れ、母国エルサルバドルに戻るという意味だ。

米移民税関捜査局(ICE)によれば、ヒューストン契約収容施設の収容者のうち、少なくとも105人で新型コロナ感染が確認されている。感染者数が増加するなかで、感染から身を守る方法は布製マスク以外にはほとんどなかった、とムノスさんは言う。ICEのデータによれば、同施設の収容者は6月1日時点で375人だった。

19歳という年齢を考えれば、通常なら新型コロナウイルスによる呼吸器疾患に伴う合併症のリスクは低い。だが、ムノスさんには新型コロナによる犠牲者の一部に見られる基礎疾患の高コレステロール血症があり、自分も危ないのではないかと感じていた。

数カ月前、エルサルバドルの学生だったムノスさんは米国への亡命を申請した。ムノスさんによれば、ある犯罪組織のために麻薬を運ぶことを拒否したところ襲撃を受けたことがきっかけだという。ムノスさんは、安全上の懸念を理由に組織の名称は伏せている。ロイターではムノスさんを担当した弁護士に取材し、ムノスさんが署名した宣誓供述書を閲覧したが、本人の証言と矛盾はなかった。

だが6月になって、ムノスさんは自分の生命が危機にひんしているのではないかと脅えるようになった。亡命を求める努力を続ける場合、次回審査が数カ月先になることが分かったからである。

先月、エルサルバドルからの電話取材に対して、彼は「母国に戻るよりも危険なのではないかと思えてきた」と語った。

ロイターでは弁護士、移民支援活動家、収容者とその家族ら30人以上に取材し、収容施設内での新型コロナ感染リスクを理由に収容者が本国送還を希望している状況を聞いた。

移民を支援する弁護士・活動家ら15人によれば、健康上の理由で米国内8州の収容施設を出ることを希望する収容者からの要望は、合計で数百件にものぼるという。彼らはロイターに対し、亡命申請の取り下げを考慮する収容者の数は増加していると語った。ロイターでは、パンデミック(世界的な大流行)を理由に、亡命に向けた努力を諦めて本国送還か自発的な帰国に同意した収容者を12人確認した。

みずから本国送還を希望する収容者の総数が増加傾向にあるかどうかは確認できていない。

移民審査を担当するサミュエル・コール連邦裁判所判事は、全米移民判事協会の広報担当ディレクターとしてロイターの取材に応じ、パンデミックの最初の数カ月間で、たとえ亡命申請の取り下げを意味するとしても収容施設を離れることを希望する移民が増加した、と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米国のイラン介入に備え厳戒態勢=関係筋

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ドローン飛来で韓国に調査要求

ワールド

米ミネアポリスで数万人デモ、移民当局職員による女性

ワールド

米、来週にもベネズエラ制裁さらに解除=ベセント氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 7
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 9
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中