最新記事

サメ

ジンベエザメの目は大量の「皮歯」によって保護されていた

2020年7月7日(火)19時30分
松岡由希子

約2900個もの皮歯が目をおおっていた (Tomita et al., PLOS One, 2020)

<これまで「ジンベエザメは視覚にあまり頼っていないのではないか」と考えられてきたが...>

沖縄美ら島財団、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、米ジョージア水族館の共同研究チームは、沖縄美ら海水族館とジョージア水族館で飼育されているジンベエザメを観察し、ジンベエザメの白眼が「皮歯」と呼ばれるV字型の鱗に覆われていることを発見した。

約2900個もの皮歯が虹彩の周りの目の表面を覆っていた

ジンベエザメは、体の大きさに比して目が小さく、視覚を処理する中脳もそれほど大きくないことから、これまで「ジンベエザメは視覚にあまり頼っていないのではないか」と考えられてきた。

一方、研究チームは、2020年6月29日にオープンアクセスジャーナル「プロスワン」で公開された研究論文において「このようなジンベエザメの目の高度な保護メカニズムは、ジンベエザメにとって視覚が重要な機能であることを示唆するものだ」と考察している。

journal.pone.0235342.g001.PNG

研究チームは、沖縄で混獲され、沖縄美ら海水族館で飼育された後、2017年に死亡したジンベエザメの眼球を形態観察した。マイクロCTスキャナで取得したCTデータを分析したところ、約2900個もの皮歯が虹彩の周りの目の表面を覆っていた。これは、脊椎動物の目の保護メカニズムとして非常に珍しいものだ。

journal.pone.0235342.g002.jpgジンベイザメの目(Tomita et al., PLOS One, 2020)

journal.pone.0235342.g003.jpg皮歯の3Dレンダリング (Tomita et al., PLOS One, 2020)

目を引っ込める仕組みがある

また、研究チームは、ジンベエザメに目を引っ込める仕組みがあることも発見した。沖縄美ら海水族館で飼育されているジンベエザメ3匹ではいずれも、ダイバーが近づくと、1秒以内に目が眼窩(眼球が入っているくぼみ)に引き込まれ、その距離は最大で眼球の直径の約50%であった。

このような動作が起こるのは概ね短期間だが、ジョージア水族館のジンベエザメは、台湾から米アトランタのジョージア水族館に運ばれた後、約10日間にわたって目が引っ込んだままだった。目が引っ込んでいる間も、ジンベエザメは視覚を維持しているとみられ、10日間、目が引っ込んでいたこのジンベエザメは、目が元の位置に自然と戻るまで、水槽をスムーズに泳いでいたという。

研究チームでは今後、視野や視力、色域、感度といったジンベエザメの光知覚力を中心に、さらなる研究が必要との見解を示している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:中国輸出企業、ドル保有拡大などでリスク軽

ワールド

中国、日本などをビザ免除対象に追加 11月30日か

ワールド

政府、総合経済対策を閣議決定 事業規模39兆円

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中