限界超えた米中「新冷戦」、コロナ後の和解は考えられない
‘THE ERA OF HOPE IS OVER’
ILLUSTRATION BY RYAN OLBRYSH
<貿易戦争はギリギリで回避したかにみえたが、パンデミックで米中対立は危険な局面へ。「中国もいずれ『普通の国』になると希望を抱く時代は終わった」。軍事面、経済面......米ソ冷戦との違いは何か。デカップリング以外の施策はあるか。本誌「米中新冷戦2020」特集より>
いずれ中国もわれわれの仲間になる──。この漠然とした思い込みは、過去40年間、アメリカの対中政策の根幹を成してきた。だが今、その「言い出しっぺ」の1人が、とうに自明になっていた事実を認めつつある。
ロバート・ゼーリック米国務副長官(当時)が、中国に「責任あるステークホルダー」になることを求めたのは2005年のこと。WTO(世界貿易機関)加盟から4年がたち、一段と好調な経済成長を遂げる中国に、政治や安全保障も含めたアメリカ主導の国際システムの一員になることを期待したのだ。
中国は、この期待に一部応えた。ゼーリックは昨年12月のスピーチで、中国が北朝鮮の核開発をめぐる国連制裁に協力したことや、核実験の全面禁止に応じたことを挙げた。だが、その上で、中国が「われわれの仲間」にはならなかったことを認めた。「習近平(シー・チンピン)指導部は、共産党を最優先し、国内の開放性や言論の自由を制限してきた。国民のプライバシーに踏み込む技術や再教育キャンプから成るディストピア的な社会のモデルをつくり上げ、自らを傷つけている」
その上で、ゼーリックは警告した。「香港の『一国二制度』を支える法の支配と開放性は、踏みにじられる恐れがある」
そして今、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)をきっかけとして、米中関係は1979年の国交正常化以来、最悪となっている。
そもそもドナルド・トランプ米大統領の就任以降、両国は対立色を強めていた。そして今、11月の次期大統領選で再選を狙うトランプは、パンデミックから経済不振に至る全ての問題で、中国を悪者にするのに必死だ。両国が対立を棚上げし、新型コロナと戦うために手を組むのではという淡い期待は、見事に打ち砕かれた。
FBIは5月13日、中国のハッカーがアメリカの研究機関や製薬会社のシステムに侵入して、新型コロナの治療薬やワクチンの開発情報を盗もうとしていると警告。これに先立つ5月7日には、トランプ自身が厳しい批判の声を上げた。
「われわれは米史上最悪の攻撃を受けている」と、トランプは記者団に語った。「真珠湾攻撃よりもひどい。世界貿易センター(米同時多発テロ)よりもひどい。こんなことは発生源である中国で食い止められたはずなのに、そうはならなかった」
この発言には、対中強硬派の外交顧問たちも仰天した。トランプが歴史に例を探したことは理解できる。ただし新型コロナ危機は、真珠湾攻撃や米同時多発テロのように醜い戦争(太平洋戦争とアフガニスタン戦争)を引き起こすのではなく、新しい国際秩序の形成を決定付けるという意味で、1961年のベルリンの壁建設に近い。そしてその流れは、ホワイトハウスの主が誰になろうと変わらない可能性が高い。