最新記事

BOOKS

ネットの「送料無料」表記に「存在を消されたようだ」と悲しむ人たちがいる

2020年4月28日(火)11時25分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<元女性トラックドライバーのフリーライターが、知られざるトラックドライバーの現実を書いた。「底辺職」という見方に憤りを覚えながら>

『トラックドライバーにも言わせて』(橋本愛喜・著、新潮新書)は、2つの意味で興味深く、説得力に満ちた作品である。

ひとつは、我々の生活に欠かせない存在であるにもかかわらず、実態が語られることの少ないトラックドライバーの現実が明らかにされている点。そしてもうひとつは、現在はフリーライターとして活動している著者が、「元女性トラックドライバー」という点である。


 筆者は訳あって、大型自動車免許を持っている。そして20代前半から断続的に約10年間、北は甲信越から南は関西方面まで、主に自動車製造で扱う金型を得意先からトラックで引取り、納品していた。平均で1日500キロ。繁忙期では800〜1000キロを走行する、中・長距離ドライバーだった。(中略)
 当時は女性のトラックドライバーが今以上に少なく、さらに平ボディ(板状で屋根のないトラック)での長距離ともなると、激レアキャラだった。ゆえに、モテた。まあ、50代以上の田舎、工場、トラックのおっちゃん限定だが......。(「まえがき」より)

町工場を経営する父親から、いずれは跡を継がなければいけない、もしくは体力のある旦那を連れて来なくてはいけないと言われ続けながら育った。しかし本人は、「シンガーソングライターになりたい」という思いを胸に抱いていたという。ここまでは、よくある話かもしれない。

ところが大学卒業を1カ月後に控えていたころ、父親がくも膜下出血で倒れた。そのためニューヨークへの音楽留学を諦め、工場を引き継ぐことに。だが、最も重要な仕事が「トラックでの金型引取り・納品業務」だったため、必要に迫られてトラックに乗ることになったのである。

つまり本書の軸になっているのは、そこからスタートすることになった著者の実体験だ。例えば印象的だったのが、第3章「トラックドライバーの人権問題」の冒頭を飾る「トラックドライバーは底辺職なのか」という節である。


 様々なトラック事情を書いていると、よく見受けられるのが、「トラックドライバーのような底辺職だけには就きたくない」なるコメントなのだが、どうか安心していただきたい。こうした気持ちの方々には、トラックドライバーは絶対に勤まらない。
 皮肉でもなんでもない。筆者を含め多くのドライバーが、3日ともたずに辞めていく人たちを、今まで数えきれぬほど見てきているのだ。「"底辺職"は、我慢すれば自分でもできる」という前提で考えていたら大間違いなのである。(96ページより)

確かに、いつの間にか日常的に使われるようになっている"底辺職"という表現は、非常に一方的で、そして差別的だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ワールド

ロシア中銀、欧州の銀行も提訴の構え 凍結資産利用を

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の

ワールド

IS、豪銃乱射事件「誇りの源」と投稿 犯行声明は出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 8
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 9
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中