最新記事

新型コロナウイルス

今こそG20が協調し、途上国崩壊を食い止めよ

Now or Never

2020年4月17日(金)15時00分
ゴードン・ブラウン(元英首相)、エリック・バーグロフ(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授)、ジェレミー・ファラー(元オックスフォード大学教授)

感染症の世界的権威が集まるインペリアル・カレッジ・ロンドンの予測では、最も楽観的なシナリオでも、新型コロナ感染症による死者はアジアで90万人、アフリカで30万人に上る見込みだ。

途上国は近代的な医療システムがないだけでなく、社会的なセーフティーネットも不十分だ。最重要物資を提供し、スタッフを採用し、国として立ち直る力を強化するためには、少なくとも350億ドルが必要だろう。

WHOによると、世界の国の約30%は、新型コロナ感染症に国として対応する準備や計画が全くなく、何らかの感染防止策がある国も50%足らずだ。医療施設にさえ清潔な水や下水設備、衛生基準が整っていない国も多い。富裕国でも、必要な数の7分の1しか救急病床がないとされるが、貧困国でははるかに少なく、全くない国もある。

各国政府は、景気悪化への対応も迫られている。ここでも、信用収縮が支払い能力の危機へと発展し、世界的な不況が大恐慌に発展するのを防ぐためには、財政と金融と貿易の各領域で、連携の取れた措置を講じる必要がある。

一部の国は既に景気刺激策を打ち出しているが、全ての国がこれに参加すれば、はるかに大きな効果を見込めるだろう。また、余剰人員の大量解雇を抑制するためには、金融機関が迅速に政府保証融資を実行して、企業と従業員が必要とする現金を積極的に供給することが極めて重要だ。

一方、最貧国には特別な経済支援が必要だ。国際社会はまず、これらの国の債務返済を今年は免除するべきだ。これにはアフリカ諸国が抱える440億ドルの債務が含まれるが、別途1500億ドル以上の支援も必要になるだろう。

世界銀行は融資上限を維持しながらでも、各国に対する支援を強化できる。しかしそれだけでは不十分だろう。世界金融危機が起きた2009年、世銀の融資額は160億ドルから460億ドルへと急増した。これと同レベルの資金供給を、今すぐ発表するべきだ。

IMFは、できる限りのリソースを動員すると表明している。具体的には5000億〜6000億ドル相当の特別引き出し権(SDR)を割り当てるべきだろう。

時間はあまりない。理想はこれらの計画を迅速にまとめて、4月16〜17日に予定されるIMFと世界銀行の合同開発委員会(テレビ会議での開催となる)で、正式に確認されることだ。それが世界にとって最も現実的な「脱出戦略」となるだろう。

確かにそのコストは高く感じられるかもしれない。だが、その負担から逃げれば、世界は壊滅的な結果を逃れられなくなるかもしれない。

©Project Syndicate

<本誌2020年4月21日号掲載>

【参考記事】新型コロナ:「医療崩壊」ヨーロッパの教訓からいま日本が学ぶべきこと
【参考記事】井戸水に頼る人々や売春婦──外出制限を守れない貧困層がアフリカで新型コロナを拡散する

20200421issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月21日号(4月14日発売)は「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集。働き方改革は失敗だった? コロナ禍の在宅勤務が突き付ける課題。なぜ日本は休めない病なのか――。ほか「欧州封鎖解除は時期尚早」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

物価目標の実現は「目前に」、FRBの動向を注視=高

ビジネス

FRB監督・規制部門責任者が退職へ、早期退職制度で

ビジネス

午前の日経平均は小幅続落、売買交錯で方向感出ず 米

ワールド

WHO、砂糖入り飲料・アルコール・たばこの50%値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中