最新記事

プラスチック・クライシス

このアザラシ、海鳥、ウミガメを直視できるか プラスチック危機の恐るべき脅威

A FATAL SEA OF PLASTIC

2019年11月20日(水)17時10分
アリストス・ジャージョウ(本誌科学担当)

プラごみにまみれるアザラシ NOAA

<便利なプラスチックをやめられない人類。陸から排出されたプラごみは海に流出し、海洋生物を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む――。本誌「プラスチック・クライシス」特集より>

20191126issue_cover200.jpg目を背けたくなる写真だ(下写真)。しかしこれが母なる地球の海を脅かすプラスチック危機(プラスチック・クライシス)の現実。人工の「異物」が多くの生命を奪っている証拠である。

世界のプラスチック生産量は今や年間4億トンを超える。そして国連の推計によれば、うち約800万トンがごみとして海に流出し、海とその生態系に深刻な影響を及ぼしている。魚や鳥は異物とは知らずに食べてしまうし、そうした魚や鳥を、また別の生き物が食べてしまう。

プラごみ汚染は「動物の正常な行動を、そして生態系の正常な機能を阻害する」と指摘するのは、米ロードアイランド大学海洋学部のエリザベス・メンデンホール准教授だ。こうした問題は「何十年も前から」知られていたし、直接的に死をもたらすだけでなく「苦痛、生存率の低下、繁殖能力の喪失」などの原因ともなり得るという。

magSR191120_1.jpg

胃にプラごみがたまり空腹感がなくなって餓死する海鳥は多い NOAA

とりわけ犠牲になりやすいのが海鳥やウミガメ、そして泳ぎながら大量のプランクトン類をのみ込むクジラなどだ。

のみ込んだプラごみで窒息しないまでも、「消化できないプラスチックが胃にたまると空腹を感じなくなり、餓死する可能性もある」と言うのは米アリゾナ州立大学のチャールズ・ロルスキーだ。「ウミガメやクジラには、浮遊するプラごみがクラゲなどの獲物に見えてしまうかもしれない。またプラスチックの臭いが魚類の食欲を誘発することも知られている」

米科学アカデミーの紀要に発表された報告によれば、1962年から2012年の間に論文で言及された海鳥135種のうち、約60%にはプラごみを摂取した形跡があり、うち29%では胃の中からプラスチックが見つかったという。それだけではない。2050年までには海鳥の種の99%がプラごみの脅威にさらされるとも警告している。

またオンライン学術誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された別の論文は、現状でも世界のウミガメの半数がプラごみを食べていると推定している。

生態系に及ぼす影響も深刻だ。メンデンホールは、プラごみで傷つけられたサンゴは、その負担が原因で免疫力が弱まると指摘。「プラごみがサンゴの病気を媒介する可能性」もあり、海中の栄養分布を乱す恐れもある。「プラごみを含む排泄物は浮きやすく、栄養分が沈みにくくなる」と考えられるからだ。

【参考記事】プラスチックごみの不都合な真実、業界は「冤罪説」を唱えるが...

有害物質を吸着しやすい

海洋プラごみをめぐる大きな懸念の1つは、プラスチック片が海中で有毒物質を吸着するリスクだ。海にはDDTなどの殺虫剤や、発癌性の疑われる多環芳香族炭化水素(PAHs)など多くの化学物質が浮遊している。

magSR191120_8.jpg

11月26日号「プラスチック・クライシス」特集20ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米独首脳が会談、イラン紛争や貿易巡り協議 ウクライ

ワールド

イラン中部ナタンズ核施設、攻撃で損傷も放射能漏れな

ワールド

ゼレンスキー氏、湾岸アラブ2カ国首脳と電話会談 防

ワールド

トランプ氏、スペインと全取引停止へ イラン攻撃で基
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び率を記録した「勝因」と「今後の課題」
  • 4
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中