最新記事

中国

香港の完全支配を目指す中国を、破滅的な展開が待っている

CHINA’S RISKY ENDGAME IN HONG KONG

2019年11月18日(月)12時00分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト)

習の「香港完全支配」のもくろみは危険過ぎる JASON LEE-REUTERS

<中国は「一国二制度」の事実上の放棄を決めた。香港を追い詰めれば、さらなる暴力が展開されるだろう。習政権はむしろそれを望んでいる可能性があるが、それがどれだけ自らを傷つけるかを理解していない>

香港の暴力的な衝突は、急速に激しさを増している。それだけでも十分恐ろしいのに、事態はさらに悪化するかもしれない。

10月末に開かれた中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議(4中全会)終了後のコミュニケを読むと、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は香港への支配を強めようとしている。しかしそのために習は、かなりの代償を覚悟する必要がある。

コミュニケには不吉な目標が2つ書かれていた。まず中国政府は「憲法と香港基本法に基づくあらゆる権限」を使い、香港とマカオを「統治管理」する。第2に、この2つの特別行政区で「国家安全を守るための法制度と執行機構を構築し、改善する」。

数日後、中央委員会が採択した決定の全文が公表された。そこでは香港の指導層の任免制度や基本法の解釈を変更するなど、統治管理の計画が明らかにされている。

計画の詳細はまだ不明だが、中国の指導層が基本法を廃止し、香港の指導層を直接任命し、司法の独立性を弱めまたは排除し、市民の自由を制限し、政治的な反対運動を抑え込もうとしていることは確かなようだ。つまり中国政府は、1997年に香港が中国に返還されたときに鄧小平が50年間維持すると約束した「一国二制度」モデルを事実上放棄することを決めたのだ。

中国の指導層は、この計画が強い抵抗に遭うことを知っているはずだ。今も続いている抗議活動を見れば分かるように、香港市民が戦わずに引き下がることはない。

中国は2003年、香港の立法会に国家安全保障法案を可決させようとした。しかし50万人を超える住民がデモに参加し、法案を撤回に追い込んだ。2012年には香港の歴史教科書を変更して「愛国教育」を導入しようとする試みが親と学生の抵抗に遭い、政府は引き下がった。

中国政府が香港を完全に支配しようとすれば、さらに多くの、そしてさらに大規模な暴力が展開されるだろう。街は混乱を極め、統治が不可能になる。

しかし中国の指導層は、それを望んでいる可能性がある。香港に治安部隊を展開し、直接支配する口実になるからだ。その意味で4中全会の決定は、私たちが知る香港の終わりの始まりを示すものかもしれない。

ただ習政権は、このアプローチがどれだけ自らを傷つけるものになるかを理解していないように見える。変わり果てた香港との関係を世界各国が見直すことで、中国はグローバルな金融システムへのアクセスを大幅に失う可能性が高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンがアフガン国境で警戒強化、週末の衝突で数

ワールド

米にレアアース輸出規制事前通知、実務者協議も実施=

ワールド

原油先物上昇、米中貿易摩擦緩和の兆しで需要懸念後退

ビジネス

ビジネスジェット世界納入、今後10年で過去最高の8
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中