最新記事

地質学

ツタンカーメンのスカラベのパワーストーンは、隕石衝突によって生成されていた

2019年5月17日(金)17時00分
松岡由希子

リビアングラスの起源をめぐっては諸説あった wikipedia

<ツタンカーメンの胸飾りに使われる宝石として有名なリビアングラスが、隕石衝突によって生成されたという研究結果が発表された>

リビアングラスとは、およそ2900万年前に生成され、エジプトとリビアとの中間地域の砂漠に点在する淡い黄色のガラス質の鉱物だ。古代エジプトでツタンカーメンのスカラベの胸飾りに使われるなど、神聖なエネルギーを持つパワーストーンとしても知られている。その起源についてはいまだ完全に解明されてはいない。

Tutankhamun_pendant_with_Wadjet.jpg

リビアングラスから削ったスカラベを施した、ツタンカーメンの胸飾り wikipedia

隕石衝突によってのみ生成される高圧鉱物が存在していた

豪カーティン大学のアーロン・カボジー博士らの研究チームは、リビアングラスのサンプル中にあるケイ酸塩鉱物の一種「ジルコン」を分析し、隕石衝突によってのみ生成される高圧鉱物「レイド石」がかつて存在していたことを突き止めた。

この研究成果は、2019年5月2日、米国地質学会(GSA)の学術雑誌「ジオロジー」で公開されている。

リビアングラスの起源については、隕石衝突によって生成されたという説のほか、地球近傍天体(NEO)と呼ばれる小惑星が爆発して大気中にエネルギーを蓄積するときに起こる100メガトン級の空中爆発で生成されたという説があり、議論されてきた。2013年2月にロシアのチェリャビンスク州付近で隕石が落下して以降は、空中爆発によって生成されたとする後者の説に人気が集まっている。

空中爆発でも生成可能だが......

隕石衝突によっても、空中爆発でも、砂漠の砂が溶解し、再び固まって、リビアングラスのようなガラス質の物質を生成することは可能だが、高圧鉱物は、隕石衝突による衝撃波によってのみ生成される。

つまり、リビアングラスに高圧鉱物であるレイド石がかつて存在した痕跡があることは、リビアングラスが隕石衝突によって生成された証といえる。また、この研究結果では、リビアングラスにおいて100メガトン級の空中爆発があったことを示す地質記録は見つかっていない。

カボジー博士は、この研究成果をふまえて「隕石衝突は大災害だが、極めて稀なものだ。空中爆発は隕石衝突に比べて頻繁に起こるが、リビアングラスが生成されるような出来事にはならないであろう」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中