最新記事

韓国事情

文在寅大統領が「眠れない」と苦悩する韓国の大気汚染問題

2019年1月23日(水)18時30分
佐々木和義

韓国で大きな問題となっている大気汚染 Kim Hong-Ji-REUTERS

<韓国で大気汚染が大きな問題となっている。1月13日からは「粒子状物質非常低減措置」が発令され、外出の自制などが呼びかけられた>

韓国の文在寅大統領の最も大きな関心事に大気汚染があると青瓦台(大統領府)関係者がマスコミの取材で明らかにした。

選挙の際にPM2.5など粒子状物質の排出削減を公約に掲げた文大統領だが、改善はみられず、「眠れない」と周囲にもらすほど頭を悩ませているという。

2019年1月13日から15日まで3日連続で「粒子状物質非常低減措置」が発令されたことを受けて行われた意見交換会の席上で、大統領は国民が実感できる対策として人工降雨の実現可能性に言及し、火力発電所から排出される粒子状物質の基準強化の検討など対策を講じるよう指示を出している(聯合ニュース)。

(参考記事)韓国のPM2.5は中国から飛来したわけではなかった

外出自制を呼びかけるが自動車移動が増え逆効果

2019年1月12日、ソウルを中心とする首都圏で粒子状物質PM2.5が長時間に渡って発生すると予測した環境部は、翌朝6時から車両通行や工場操業を規制する粒子状物質非常低減措置を実施すると発表した。行政や公共機関の車両運行を制限し、市民に対しても外出を自制する呼びかけを行って、やむを得ず外出する際にはマスクを着用するよう促したが、この措置がさらなる悪化をもたらした。

韓国の共同住宅の多くは地下に駐車場を備えていて、オフィスビルや百貨店なども地下に駐車場を設置している建物が多い。公共交通機関での移動は乗り換えなどで外気に身をさらす機会が増えるが、自家用車なら外に出ることなく移動できる。このため粒子状物質の発生で自家用車を利用して移動する市民が増えたのだ。

1月14日のソウルは1日の平均濃度が1立方メートル当たり127マイクログラムに達し、これまで最高だった2018年3月の99マイクログラムを上回るワースト記録を更新した。自家用車を利用する人が増えた江南区では一時1立方メートル188マイクログラムとなり、京畿道富川市は248マイクログラムを記録した。なお、韓国の基準は2018年3月から日本や米国と同じ1日あたり35マイクログラム以下に強化されている。

粒子状物質は経済活動にも影響をもたらした。市民や観光客が屋内型のショッピングモールに集まり、伝統市場は往来が少なくなった。南大門市場をはじめ、売り上げが通常の3割から4割以上減少した店が少なくない(中央日報)。

韓国ではマスクを着用する習慣はなかったが ......

一方、マスクや空気清浄機の販売が急激に伸びている。ECサイトの11番街は、1月13日のマスク取引量が前週同日と比べて760%増え、大手スーパーのEマートでも1月10日から16日までのマスクの売上が前年同期比458%増となり、空気清浄機は414%の増加となった。2016年に年100万台だった空気清浄機の販売台数は2018年に250万台を超えており、2020年には300万台を超えると業界は予測する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー

ビジネス

韓国クーパン創業者、顧客情報大量流出で初めて正式謝

ワールド

中国万科の社債37億元、返済猶予期間を30日に延長

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30日に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中