最新記事

テクノロジー

イーロン・マスクが地下トンネルで広げた新たな大風呂敷

Seriously, Elon Musk?

2019年1月5日(土)17時30分
ヘンリー・グレーバー

マスクが公開した地下交通システムは車と列車の「悪いとこ取り」 Robyn Beck-POOL-REUTERS

<公表された高速地下交通システム構想には欠点しか見つからない>

あのイーロン・マスクが描く「高速地下交通システム」のビジョンが明らかになった。これが何とも悪い意味で、驚くべきものなのだ。ロケットを打ち上げると同時に「脱内燃機関」なるものにも取り組んでいる彼には、交通システムまで構想する時間とエネルギーが十分になかったのかもしれない。

12月18日、マスクは有名人やジャーナリストをカリフォルニア州ホーソーンに招待。経営するテスラ社の電気自動車に彼らを乗せ、自身が率いるボーリング・カンパニーが掘削した全長1.83キロの試験トンネルを時速80キロで走らせた。

ところがこの乗り物、自動車のようだが行き先は限定されている。列車のようでもあるが、乗車定員が少な過ぎる。都市の渋滞解消を目指すというこのシステムは、既存の交通手段の「悪いとこ取り」でしかない。

ロサンゼルス・タイムズ紙はこう書いた。「約2分のトンネル内の移動中、車のライトとトンネルの天井の青いネオンに照らされ続けた。車の走行するコンクリート上はデコボコで、泥道を走っているようだった」

ニュースサイトでは、自分のアイデアについて熱弁を振るうマスクらしい姿が伝えられた。彼はかつて車と歩行者を乗せた乗り物を移動させることを考えたが、今回は車だけのようだ。

シリコンバレーに関する報道には、以前から登場する皮肉っぽい視点がある。「彼ら」のやり口といえば、既存のアイデアを新しいもののように見せ、SNSで宣伝し、金を集めているだけじゃないか――。

だが今回のマスクのプロジェクトは、そんな皮肉にも値しない。何といっても、これはオリジナルなアイデア。輸送と移動の分野において誰も思い付かなかった......最悪のアイデアだ。

地下鉄より効率が悪い

いずれは1時間に4000台の車を時速250キロでトンネル内を走らせると、マスクは豪語する。彼はロケット科学者かもしれないが、誰がそんな言葉を信じられるだろう。

仮にそれが技術的に可能で、全車に定員いっぱいの乗客が乗ったとしたら、マスクの計算では1時間に2万人が移動することになる。だがこの人数は、ロンドンの地下鉄ビクトリア線が運ぶ乗客の半分ほどでしかない。多くの人を運んで渋滞を解消することが目的なら、面倒なものを造らなくても、既存の地下鉄で構わないのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中