最新記事

サイエンス

都市を日光の熱から守る古代エジプトの青

The Egyptian Blue Effect

2018年11月7日(水)17時00分
アリストス・ジョージャウ

古代エジプトの神々や王族を描くのに使われた色素のエジプト青が地球温暖化防止に役立つかもしれない Freeartist/iStock.

<人類最古の人工色素と言われる「エジプシャンブルー」に隠されていた熱い日光をはじき返す不思議なパワー>

エジプシャンブルー(エジプト青)という色素をご存じだろうか。古代エジプト人が作り出したもので、世界最古の人工色素とも言われる。この青い色素が数千年の時を経て、現代社会でも大いに役に立つと期待できることが最新の研究で明らかになった。

米ローレンス・バークレー国立研究所の研究チームが学術誌ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックスで発表した論文によれば、エジプト青に光を当てたときに放たれる蛍光(光や電磁波の照射を受けた際に物体から発せられる光のこと)は、従来考えられていたより10倍も強いことが判明した。

つまり、この色素の入った塗料を屋上や外壁面に塗れば、強い日差しを浴びる夏でも建物が熱くなりにくくなってエアコンの使用を減らせるかもしれない――研究チームはそんな期待を抱いている。

egypt-chart.jpg

Blakeley Lab

エジプト青の材料はケイ酸銅カルシウムという物質だ。古代エジプトでは神々や王族を描く際に使われ、ローマ人はこの色をカエルレウムと呼んだ。だが古代ローマの時代が終わると使われなくなり、19世紀になるまで製法も忘れ去られていた。

ローレンス・バークレーの研究チームはエジプト青と、比較のために他の色で塗ったサンプルを日光に当てた。そしてその後の温度を計測し、放たれる蛍光のフォトン(光子、光の粒子)の量を計算したという。

これにより、建物の温度上昇を防ぐ効果があるのはどんな色かについて新たな知見が得られた。建物を涼しく保つために最もよく使われるのは、日光を反射する性質を持つ白の塗料や壁材だ。だがデザイン上の理由から、白以外の色を使いたい場合もある。これまでにローレンス・バークレーが行った研究では、蛍光ルビーレッドが白の代替として効果的なことが分かっていた。そして今回、エジプト青も新たにリストに加わったわけだ。

また、エジプト青の発する蛍光は発電にも利用できるかもしれない。先行研究において、エジプト青は可視光を吸収して近赤外線を発することが分かっている。エジプト青で染めた窓の縁に太陽電池パネルを設置すれば、窓で反射された大量の近赤外線のエネルギーを電気に変えられる可能性がある。

見た目が涼しげなだけでなく実際に建物を涼しく保ち、しかもエネルギーを生み出す。エジプト青は悠久の時を経て、地球温暖化の防止に一役買うかもしれない。

<本誌2018年11月06日号掲載>

※11月6日号は「記者殺害事件 サウジ、血の代償」特集。世界を震撼させたジャーナリスト惨殺事件――。「改革」の仮面に隠されたムハンマド皇太子の冷酷すぎる素顔とは? 本誌独占ジャマル・カショギ殺害直前インタビューも掲載。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中