最新記事

交通

「電車もバスも無料」の自治体が欧州で拡大中 なぜ無料に?

2018年11月5日(月)19時40分
松丸さとみ

交通機関の運賃が無料になる都市が増えている LeManna-iStock

<公共交通機関を無料にしている自治体が欧州で増えている。その理由は...>

タリン、ダンケルクなど比較的大きな都市でも

電車やバスの交通費って、わりとばかにならない。郊外に住んでいたり、通学や通勤などの定期券がなかったりすると余計に痛感するものだ。しかしそれを無料にする動きが、ヨーロッパを中心に世界で拡大している。

ベルギーのブリュッセル自由大学で公共交通機関の無料化について研究しているヴォイチェフ・ケブロウスキー博士は、米雑誌ジャコバン(8月24日付)で、公共交通機関を無料にしている自治体は世界中で少なくとも98あるとし、特定の区域や時期だけを無料とする自治体は数百に達すると説明している。

ガーディアン紙が同じくケブロウスキー博士の調査として引用した数字によると、2017年の時点で公共交通機関を無料にしている自治体の数は、ヨーロッパで57、北米で27、南米で11、中国で3、オーストラリアで1となっている。

それまでは比較的小規模の自治体で行われてきたが、エストニアの首都、人口約44万人のタリンも2013年、公共交通機関を無料にした。住民登録している市民だけが対象で、2ユーロ(約250円)で「グリーンカード」を購入すると、それ以降は市内のバス、トラム、トロリーバスの運賃がすべて無料になる。

また今年9月、フランス北部の港町、都市圏の人口が約20万人に達するダンケルクでも、公共交通機関を無料にするプロジェクトがスタートした。ダンケルクには地下鉄やトラムなどはなく公共交通機関といえば路線バスだけだが、ダンケルク住民のみならず観光客などすべての人が無料で利用できる。バスではモバイル機器が充電できたり、Wi-Fiが利用できたりする上、「スポーツ・バス」と呼ばれるゲームやクイズが楽しめるバスも運行中で、運営組織は今後、ディベートや音楽が楽しめるバスも計画しているという。

なぜ無料に?

交通機関の運賃が無料になるのは、利用客にとってはもちろんいいことづくめだが、運営側にとっての利点は何だろうか?

ケブロウスキー博士によると、世界で初めて公共交通機関を無料にしたのは1962年、米ロサンゼルス郊外のコマースという町だった。公共交通機関の利用者を増やし、自動車インフラへの投資額上昇を抑える効果を狙い、1970〜1990年代は公共交通機関の運賃を無料にする自治体がロス郊外に多くあったという。

また、ベルギーのハッセルトでのケースも有名なようだ。ハッセルトでは当時、交通渋滞がひどかったため環状道路の建設が計画された。しかし1996年、当時の市長は「必要なのは新しい道路ではなく新しいアイデアだ」として建設計画を中止。代わりに公共交通機関の運賃を無料にしたという。翌1997年から始まった公共交通機関の無料制度は結局、運営コストの増加と自治体の変化に伴い2014年に終了したが、16年にわたり公共交通機関は無料で運営された。

ケブロウスキー博士はジャコバンの記事の中で、切符を販売し、確認し、管理する機器や現金管理の設備が不要になるだけで、コストが浮くと指摘。また、もともと運賃からの収入で賄えるのは、運営の一部だけだと説明している。ガーディアンは、ダンケルクの場合、交通機関の運営費4700万ユーロ(約60億円)のうち、運賃で賄えたのは約10%に過ぎなかったと説明している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中