ロシアでエホバの証人狩り、ソ連「宗教弾圧」の悪夢再び
ロシアは宗教弾圧の暗い歴史を持つ。公式記録によれば、無神論を国是としていたソ連時代にはロシア正教会の聖職者が少なくとも20万人処刑され、加えて何百万ものキリスト教徒が投獄されるか迫害された。
エホバの証人への弾圧は、当時に逆戻りしたかのようだ。「年配の信者はソ連時代の悪夢を思い出している」と、モスクワ在住のある信者は匿名を条件に本誌に語った。
ソ連時代との違いは、エホバの証人だけが標的にされていることだ。治安当局はロシア正教会の強力なバックアップを受けて弾圧を行っている。
ロシアの憲法は政教分離をうたっているが、20年近くに及ぶプーチンの支配下でロシア正教会と政府の癒着が進んだと反政府派は指摘する。ロシア正教会のキリル総主教はここ数年、自らが「聖戦」と呼ぶシリア介入から、「唾棄すべき」とさげすむ同性婚までさまざまな問題で公式声明を出している。さらに、プーチンの統治を「神による奇跡」とたたえてもいる。
愛国主義を支持せず弾圧
エホバの証人への弾圧については、総主教は公式発言を控えているが、教会の広報担当は熱っぽく支持。キリルに近い正教会の超保守派の活動家らも最高裁の判断を歓迎している。「エホバの証人は外国の宗教をロシア人に押し付けようとしているが、ロシアにすればいい迷惑だ」と、保守派の活動家アンドレイ・コルムヒンは吐き捨てる。
昨年の世論調査によれば、ロシア人の80%がエホバの証人弾圧を支持しているが、この数字はロシアの人口に占めるロシア正教会の信者の割合と同じだ。
一方、最高裁の判断の背後に政治的な意図が透けて見えるという指摘もある。「ロシアが欧米と対決したことで、愛国主義の嵐が国中に巻き起こったが、エホバの証人はこれを支持しなかったから弾圧の対象になった」と、モスクワのロシア科学アカデミーの宗教専門家ローマン・ランキンは指摘する。「政府と治安機関は宗教団体の動きを極度に警戒している」
ランキンによれば、ロシア正教の活動家も治安当局ににらまれる可能性がある。「いくらプーチンがロシア正教の信者でも、モスクワの路上で『キリスト教のコミュニティーを建設しよう』と訴えたら、今のこの国の法律では逮捕されかねない」