最新記事

在韓米軍

現実味を帯びてきた在韓米軍撤収のシナリオ

2018年7月13日(金)17時40分
小谷哲男(明海大学外国語学部准教授・日本国際問題研究所主任研究員)

韓国南東の浦項で行われた米韓合同軍事演習(2013年) Lee Jae-won-REUTERS

<ワシントンのシンクタンクは在韓米軍の見直しの研究に着手――トランプの「爆弾発言」の真意と韓国の覚悟とは>

6月12日、シンガポールで歴史的な米朝首脳会談を終えたトランプ米大統領は、単独で開いた記者会見で在韓米軍の縮小について聞かれると、在韓米軍「3万2000人」をいつかは帰国させたいが今ではないと答えた後、米韓の「戦争ゲーム」、つまり合同軍事演習を中止すると「爆弾発言」した。

米国防総省の報道官は演習中止についてマティス国防長官が事前に大統領と協議をしていたと説明した。しかし、実際に協議した内容は演習の中止ではなく、北朝鮮との対話が続く間は合同演習の大々的な宣伝を控えることだった。6月末にマティスは日韓を訪問し、演習を中止しても在韓米軍を維持することを強調したが、実際には在韓米軍の見直しがもはや避けられない状況となっている。

6月末に筆者がワシントンを訪れると、官民のシンクタンクで在韓米軍の見直しがインド太平洋における米軍の態勢にどのような影響を与えるのかについての研究が始まっていた。その背景には、在韓米軍に影響を与える3つの動きがある。

まず、米韓で協議が続いている戦時作戦統制権の移管問題。朝鮮戦争の最中、韓国軍は作戦統制権を国連軍司令官に委ね、その後、78年に米韓連合軍司令官がこれを継承した。94年に平時の作戦統制権が韓国軍に移管されたが、革新系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権になると「自主国防」を強調し、有事の作戦統制権の移管も求めた。その後の保守政権の下で移管は延期されてきたが、現在の文在寅(ムン・ジェイン)政権は22年までの早期移管を目指している。このため、国防総省で昨年後半から在韓米軍の将来についての検討が始まっている。

日本もひとごとではない

また6月末に、在韓米軍司令部は首都ソウルの竜山基地からソウル南方の京畿道平沢にあるキャンプ・ハンフリーに移った。これは、自主国防を求める韓国と、在韓米軍に戦略的な機動性を持たせたいアメリカの双方の意向を反映したものである。ただし作戦統制権の移管は、在韓米軍の役割の見直しと規模の縮小にはつながっても、撤収にはつながらない。

一方、在韓米軍撤収につながりかねないのは、休戦状態にある朝鮮戦争を終結させて平和協定を結ぶことに合意した今年4月の板門店宣言だ。朝鮮戦争では、米軍を主体とする国連軍が組織され、それが今日の在韓米軍の母体となっている。現在の在韓米軍の駐留根拠は、53年の休戦から約2カ月後に結ばれた米韓相互防衛条約であるが、朝鮮戦争が終結して平和協定が結ばれれば在韓米軍の存在を見直すことは避けられない。

韓国大統領府の文正仁(ムン・ジョンイン)統一外交安保特別補佐官は、「北朝鮮と平和協定が締結されれば、在韓米軍の存在を正当化し続けることは難しい」と米フォーリン・アフェアーズ誌に寄稿している。韓国政府はこの見方を否定したが、文の考えは、韓国の革新派が北朝鮮との融和のためなら在韓米軍の撤収を受け入れる用意があることを示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中