最新記事

ジェンダー

北欧の働く母親も楽じゃない

2018年2月28日(水)16時30分
ジョーダン・ワイスマン(スレート誌記者)

手厚い育児支援制度があっても育児の負担の多くは母親にかかる Maskot/GETTY IMAGES

<子育てに優しい男女平等の北欧の福祉国家デンマークでも、女性が育児と仕事での出世を両立させることは難しい>

少なくとも制度上は、デンマークは働く母親の天国だ。有給の産後育児休暇は、両親合わせて最高52週間。つまり最低1年は仕事や家賃を心配することなく、子供の世話に専念できる。母親が仕事に戻りたければ、政府が費用の4分の3を助成する公営託児所がある。6歳未満の子の90%以上が利用している。

だが、これほど働く親への支援が手厚いデンマークでも、母親業とキャリアの追求の両立はかなり難しい。

それを明らかにしたのは、最近発表された3人の経済学者による研究だ。彼らは1985年から2003年の間に第一子を出産したデンマーク人女性約47万人の収入を調べ、驚くべき事実を発見した。親になるまでの賃金上昇ペースは男女とも同じだが、出産後は男女のキャリアパスは分かれる。父親にとっては、ほぼ何の変化もない。しかし母親の収入は、子供を産まずに仕事を続けた場合に得られたであろう収入より平均で30%も下がっていた。

母親が働くのを諦める場合も多く、働き続けても賃金は下がり就労時間も減る。さらに悪いことに、キャリアは完全には元に戻らない。10年たっても女性の給料は、子供を産む前より20%低いままだった。

この問題は解決に向かってさえいない。全米経済研究所が18年1月に発表した報告によれば、1980年段階でデンマーク女性の収入は育児がキャリアに及ぼす影響のせいで男性よりも18%低かった。13年にはその差が20%に広がっていた。

この調査に参加したプリンストン大学のヘンリック・クレーブン教授は言う。「デンマークのジェンダー格差にはさまざまな要因があり、その多くは時とともに消えた。しかし育児の問題は少しも変わっていない」

相反する育児休暇の効果

育児のせいで女性の収入が下がる現象は、デンマーク以外の北欧福祉国家でも見られる。スウェーデンのカップルを対象とした13年の調査によると、出産後15年間で男女の収入格差は32ポイントも広がっていた。

北欧でさえ女性が育児と仕事を両立できないのはなぜか? 

一つには、母親支援策の予期せぬ副作用がありそうだ。女性が仕事に戻り、男性の同僚と同等の給料を稼げるようにすることが目標なら、無料か格安で保育を提供する施策は明らかに有益だ。

だが、気前のいい育児休暇のほうはいい面も悪い面もある。女性が仕事を辞めずに家で乳幼児の世話に専念できるのはいいが、それは同時に、女性が長期にわたって労働市場から遠ざかることを意味する。そうなればキャリアは後退し、以前と同じコースに戻ることは難しい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円で急落、一時約2円安の15

ワールド

アフガン作戦巡るトランプ氏発言に反発 欧州同盟国、

ワールド

伊首相、トランプ氏「平和評議会」規約修正求める 憲

ワールド

独首相、トランプ氏「平和評議会」に慎重姿勢 構造に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 8
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 9
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 10
    湿疹がずっと直らなかった女性、病院で告げられた「…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な一部」ではないと指摘
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 6
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中