最新記事

中国

北ミサイル、中国の本音は?――中国政府関係者独自取材

2017年12月4日(月)15時38分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

Q:では、中国はどうするつもりなのか?

A:だから、「双暫停」しかない。中露の立場ははっきりしている。しかも、一刻も早く対話に持ち込まないと、北朝鮮はアメリカ全土をカバーする大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させてしまい、核保有国になってしまう。日米は実に愚かだ。圧力や制裁などで北朝鮮が核・ミサイルを放棄するなどとでも考えているのだろうか?プーチンも言ったように、金正恩は草の根を食(は)んででも絶対に放棄しない。放棄するくらいなら自爆するだろう。安倍は金正恩の考え方を変えさせるなどと妄言を吐いているが、実態を知らな過ぎる。立場の弱い国は自国を守るために核を持つしかないんだ。かつての中国も同じこと。毛沢東が核を持つために何と言ったかは知っているだろう?

Q:もちろん知っている。毛沢東は「たとえズボンを穿かなくても、核を持ってみせる」と言って、実際に1964年に核実験に成功した。あれは対アメリカでもあり、対ソ連でもあった。朝鮮戦争のときにマッカーサーが中国に原爆を落とすと言ったし、1960年代には既に中ソ対立があって、ソ連も核を持っていたから、自国を守るためには核を持つしかないと、毛沢東は言った。

A:その通りだ。経済制裁を受けて孤立すれば、弱い国はどんなことがあっても核を持とうとする。だから、核・ミサイルを放棄させたいのなら、圧力と制裁は逆効果になる。それを安倍は知るべきだ。トランプも中国に北への原油供給を断てと言っているが、日本が第二次世界大戦を始めた理由の一つに、日本に対する石油の禁輸があることを日米自身が最も知っているはずだ。そのことを忘れたのではあるまい。それを考えれば、圧力と経済制裁は北朝鮮を益々挑発的な行動へと導き戦争の実現性を駆り立てていくだけだということを理解すべきだ。その間に北の核・ミサイル開発技術は急速に発展し、交渉の余地を失わせていく。

Q:では今、北朝鮮にいる中国人留学生を帰国させ始めているが、それは戦争が始まると考えているからなのか?

A:戦争が始まるか否かは、ひとえに米韓が合同軍事演習を辞めるか否かにかかっている。金正男がマレーシアで暗殺されたとき、実行犯を操っていた(マレーシアにいた)北朝鮮スパイを北に帰還させるために、北は北朝鮮にいたマレーシア政府関係者を人質とした。ひとたび人質に取られたら、どんなことが起きるか分からない。だから中国人の安全を守るために帰国に向けて動いている。

Q:もし対話に入ったとき、それでも北が核・ミサイルの凍結を承諾しなかった場合、中国は断油を実行するか?

A:その問いには答えられない。

以上だ。

最後の問いと答えこそが、全てを物語っているが、筆者もこれ以上は書けない。Q&Aは、延々と続いたが、ここまでにしておこう。

(なお、中朝国境線の完全封鎖に関しては文字数の関係上、省略した。)


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ

ワールド

スーダン、人道危機リストで3年連続ワースト1位 内

ワールド

スマトラ島洪水、活動正常化には数カ月=プラボウォ大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中