最新記事

医療

金ががん治療に有効? キモセラピーの副作用低減か

2017年8月22日(火)19時00分
松丸さとみ

Korovin-istock

<英エジンバラ大学の研究チームが行なった実験によると、金の成分が、肺がん治療に使用される薬物の効果を上げ、副作用を低減させる可能性があることが分かった>

薬を活性化する金ナノ粒子

小さな金片が、将来、人の命を救うかもしれない。金の成分が、肺がん治療に使用される薬物の効果を上げ、副作用を低減させる可能性があることが分かったのだ。英紙インディペンデントなどが報じた。

英エジンバラ大学の研究チームが行なった実験で分かったもので、同研究チームのプレスリリースによると、実験で使われたのは金ナノ粒子と呼ばれる極小の成分。実験では、がん細胞に使用された抗がん剤を金ナノ粒子が活性化したことが示された。

また別の実験では、金ナノ粒子を化学装置の中に入れ、ゼブラフィッシュの脳に移植して検証した。この方法の場合、健康的な組織を損傷することなく異常細胞だけをより正確にターゲットにできるため、化学療法(キモセラピー)治療に伴う副作用を低減できることになる、と研究チームは述べているという。ゼブラフィッシュに使えたことから、この方法が生物にも使用できる可能性があるため、将来的には人間に適用できるだろうと研究チームは期待している。

キモセラピーの副作用低減か

実験を行なったエジンバラ大学のアシエル・ウンシティ=ブロセタ博士は、「我々は、これまで知られていなかった金の特性を発見した。今回の研究結果で、金を使えば、腫瘍内に非常に安全に薬物を放出できる可能性があることが示唆された」と話した。

さらに、「患者に使えるようになるまでにはまだまだやるべきことはあるが、今回の研究はその一歩。将来的には、似たような装置を人間に移植し、腫瘍内で化学療法(キモセラピー)を直接作用させ、健康的な臓器に有害な副作用が起こるのを減らすことができるようになるかもしれない、と期待している」と話した。

英国がん研究所で広報を担当するアンニャ・マッカーシー博士は、今回の研究が、がん治療を向上したり副作用を低減させたりする可能性を秘めている、と指摘。特に、脳腫瘍など処置が難しいがんの治療を向上させるのに役立つのではないか、と述べている。

今後は、人間に対して安全に使用できるのか、長期的・短期的な副作用は何か、特定のがんに特に効果を発揮するのか、などを検証していくことになる、と説明している。

【参考記事】欧州初、ドイツで寄生虫の卵のサプリメントが合法的に販売開始か?
【参考記事】「癌は細胞の先祖返り」新説は癌治療の常識を変えるか

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

国連、雨季到来前に迅速な援助呼びかけ 死者3000

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米関税警戒で伸び悩みも

ビジネス

関税の影響を懸念、ハードデータなお堅調も=シカゴ連

ビジネス

マネタリーベース、3月は前年比3.1%減 7カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中