最新記事

教育

地方学生が抱える奨学金ローンの破綻リスク

2017年6月28日(水)15時50分
舞田敏彦(教育社会学者)

濃い色は50%を超える県で、地方の周辺県に多い。九州は福岡県を除いて軒並み濃い色で染まっている。所得水準が低いためだ。大学生の奨学金利用率は、親世代の平均年収と強い相関関係がある。<図2>は、各都道府県の45~54歳男性の平均年収と学生の奨学金利用率の相関図だ。

maita170628-chart02.jpg

父親世代の年収が低い地域ほど、大学生の奨学金利用率は高い傾向にある。相関係数はマイナス0.8近くにもなり、大変「強い」相関関係を示している。

奨学金は家計が苦しい家庭の学生に貸与されるものだから、当然といえばそうだ。上記の統計的事実は、地方の学生に対する高等教育機会の提供に、奨学金が一役買っていることの証左でもある。奨学金がなかったら、大学進学機会の地域格差はさらに広がるだろう。

しかし日本の奨学金とは「名ばかり」で、実質は返済義務のあるローンだ。さらに良くないことに、近年では有利子化も進んでいる。借りた奨学金を返せず、人生に破綻をきたす学生も少なくない。今回のデータは、そうした破綻リスクに晒されている割合が地方の学生ほど高いことも示している。

【参考記事】加計学園問題は、学部新設の是非を問う本質的議論を

高等教育の機会均等を実現するには、奨学金を貸し付けるのではなく、学費の減免枠を増やすべきではないか。高等学校では、一定の所得以下の家庭の生徒には就学支援金が支給されるが、これを大学に適用するのも一つのやり方だ。

日本は大学進学率が50%を超え、多くの人に高等教育機会が開かれた教育大国だが、それは家計に無理を強いることで成り立っている。地方では、学生の半分以上が有利子の借金を負って学んでいる。

金貸しの事業をもって法が定める「奨学の措置」とみなすことはできない。教育を受けることは国民に保障された権利だ。この原点に立ち返り、「奨学の措置」のあり方を考え直す時にきている。

<資料:日本学生支援機構「学校毎の貸与及び返還に関する情報」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中