金融政策の限界が露呈、新たな現実に古い道具
多くの先進国では、平均寿命が過去半世紀で10─15年延びて80歳を超えた。中銀が生み出したマネーは、長い老後に備えた貯蓄へと流れている。
経済協力開発機構(OECD)のデータによると、可処分所得に占める貯蓄の割合は着実に増え、スイスでは過去最大の20%、スウェーデンでは16%、ドイツでは10%に達した。
この3カ国はいずれもマイナス金利政策を実施しているが、狙い通りに支出は増えず、家計はスズメの涙ほどの金利にもかかわらず貯蓄を増やしている。
クレディ・スイスのウェルスマネジメント戦略責任者、Nannette Hechler Fayd'Herbe氏は「インフレは貨幣的現象であり、中央銀行が直接左右できるという中銀の信念に疑問が投げかけられている」と指摘。「貨幣的現象には違いないが、それ以上に構造的現象であり、人口動態的現象でもあるかもしれないと(中銀は)気付き始めている」と続けた。
生産性
経済のサービス化に伴い、企業の設備投資も減っている。サービス業はヒトの生産能力という限界があるため、生産性の伸び率は低い。このため賃金も伸びにくく、物価と消費は自ずと抑えられる。
欧州では、ユーロ圏債務危機以降に生まれた新規雇用の5人に4人がサービス業で、生産性は危機前の水準で停滞している。米国はましだが、それでも生産性伸び率は2009年当時の半分以下に下がり、0.4%前後で推移している。
現在の支出トレンドは最長10─15年続くと見るエコノミストもいる。これに対し、金融政策が視野に入れるのは通常2、3年先までだ。