「政治冷感」の香港で注目を集める新議員、朱凱廸とは?
Bobby Yip-REUTERS
<政治の話で持ちきりなのに「政治に無関心」と評される香港。先の議会選挙では「親中派vs.非親中派」の構図は変わらなかったものの、非親中派内でより過激な「本土派」が台頭するという変化はあった。だが、最多得票で当選し、当選後も活躍が注目される本土派の朱凱廸(上写真)は、そんな構図の枠外にある存在だ>
香港は「政治冷感」(政治に無関心)の都市だと言われる。だが、実際に訪れてみると、タブロイド紙を含めて新聞は政治(ゴシップも入っているが)の話で持ちきりだし、街頭ではたびたび市民団体の演説を見かける。政治に対する関心はあるのだ。それなのに「冷感」と評される理由はどこにあるのだろうか。
香港人に話を聞いたとしても求める答えが得られるわけではない。頭をひねりながらも民族性、文化、歴史......とさまざまな答えを返してくれるだろう。だが、最大の問題は選挙制度にあるのではないか。変化を生まない制度への諦観が「政治冷感」につながっているのではないか。そう気づかせてくれたのが9月4日に行われた立法会(香港議会)選挙だった。
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選挙制度に仕組まれた超安定的政治構造
立法会選挙の制度的問題点とはなにか。日本メディアでもよく取り上げられているのが「業界別選挙」の問題だ。全70議席のうち、半数は「漁業・農業」「保険」「航空・交通」など28の業界団体から選出される。そのほとんどが親中派だ。業界別選挙では立候補者が1人しかいないため自動当選となる議席も多いし、わずか100票で当選する候補者もいる。数万票を集めて当選した議員とわずか100票しか得ていない議員も同じ1議席となってしまう。これではばかばかしくなってしまうのも当然だ。
だが、この説明だけでは不十分だ。実は残り半数の直接選挙にも制度的な問題が潜んでいる。選挙では5つの選挙区で計35議席が争われる。1つの選挙区から複数の議員が当選する、いわゆる大選挙区制だ。大選挙区制は変化が生まれづらいのが特徴だ。中選挙区(日本独特の用語で1選挙区から複数が当選するという意味では大選挙区の一種だ)時代の日本がその好例で、自民党がきわめて安定的な政権を築いていた。小選挙区が導入された今、無党派層の動きによって毎回のように雪崩的勝利が起きるようになった。
香港では親中派の得票率が約40%、非親中派の得票率が50%台という構図が長年続いていることもあって、親中派と非親中派の議席数には大きな変化はない。2012年の選挙では親中派が43議席、非親中派が27議席。今回の選挙では親中派が40議席、非親中派が29議席、中間派が1議席という結果だ。「親中派が過半数を占めるが、重要法案通過に必要な3分の2に満たない」という状況に変化はない。ちなみに今回の選挙で落選した親中派有力候補はわずかに1人で、仮に当選していたとしても議会の勢力分布に大差はなかった。