最新記事

歴史問題

毛沢東は「南京大虐殺」を避けてきた

2015年10月13日(火)17時30分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 なお、靖国神社参拝批判が80年代半ばから盛んになった背景にも、こういった毛沢東の「抗日戦争(日中戦争)観」が関わっている。

習近平政権になってから異常に加速する「歴史カード」

 今年8月25日付けの本コラムで「毛沢東は抗日戦勝記念を祝ったことがない」と書いたが、習近平国家主席は、9月3日の抗日戦争勝利70周年記念日に中国建国後初めて軍事パレードを挙行しただけでなく、「南京大虐殺」に関してもユネスコが世界記憶遺産に登録認定するところまで漕ぎ着けた。

 習近平政権になってから、中国共産党による日中戦争時の歴史改ざんは加速するばかりである。言葉では「世界平和のため」と言っているが、その実、「日本の戦争犯罪を世界共通の認識」へと持っていき、反日意識を全世界に広げる効果をもくろんでいる。

 なぜなら日米が中心となってTPPなどの手段で「普遍的価値観」を世界的に普及させ中国包囲網が思想的に出来上がっていくのを切り崩したいからだ。そのためには「日本の歴史認識カード」は都合の良い切り札になるのである。

 その証拠に10月10日、中国外交部の華春瑩・副報道局長は「南京大虐殺は国際社会が公認する歴史事実となった」と述べたことに注目しなければならない。

中国に関する日本人の「歴史認識」の危なさ

 問題はわれわれ日本人が、どれだけ正しい中国に関する「歴史認識」を持っているかだ。

 今年8月10日付の本コラム「戦後70年有識者報告書、中国関係部分は認識不足」に書いたように、日本の「有識者」は「1950年代半ばに共産党一党独裁が確立され、共産党は日本に厳しい歴史教育、いわゆる抗日教育を行うようになった」と書いている。

 日本の政治を動かす、安倍総理のための「有識者」は、こんな程度の「中国に関する歴史認識」しか持っていない。これが日本国民にどれだけの不利をもたらしていることか――。このような状態では日本を守る外交戦略さえ立てることができない。

 中国のこの、政治利用とも言える「歴史認識カード」を跳ねのけることができる唯一の道は、日中戦争時代および中国建国後の毛沢東を徹底して研究することである。それ以外に道はない。

 それにより中国共産党の真相を正しく客観的に見抜く視点を養えば、ユネスコを説得する力をも持ち得ると固く信じる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中