恐怖、不安、自己認識──この世界の境界はどこに? 話題作 『ボーダー』主演女優インタビュー
Smelling Fear and Anxiety
ティーナがヴォーレに感じたにおいの正体が徐々に明らかに ©META_SPARK&KÄRNFILM_AB_2018
<肉体改造と大胆な特殊メークで大変身。 『ボーダー』主演女優の演技が観客を異次元に導く>
恐怖や不安を嗅ぎ分けられるとしたら、どうだろう。ヨン・アイビテ・リンドクビストの短編小説を基にしたアリ・アッバシ監督の『ボーダー 二つの世界』は、そんな世界が垣間見える作品だ。
スウェーデンの税関職員ティーナ(エバ・メランデル)は違法な持ち込み品や、道徳的腐敗を嗅ぎ分ける特殊な能力を持っている。ある日、旅行者のヴォーレ(エーロ・ミロノフ)を呼び止めるが、いつもの直感が外れてしまう。やがてティーナは 彼を自宅に招き、離れを宿泊先として提供。自分とヴォーレについての大きな秘密を知るようになっていく──。
『ボーダー』は北欧の神話をべースにした物語だが、自己認識というテーマにも重点を置いている。メランデルが繊細に演じるティーナに観客は心を開き、時に笑い、時に涙を流す。2018年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門のグランプリ受賞などでも話題になった作品だ。
特殊メークで大変身してティーナ役に挑んだメランデルに、本誌マリア・ブルタジオが話を聞いた。
――ティーナ役を演じるに当たってどんな準備をしたのか。
週4回のボディービルディングで腰から肩にかけて筋肉をつけ、体重を18キロ増やした。冷蔵庫に食事のスケジュール表を張って、90分に1度は食べていた。
短期間で急激に体重を増やすのはある意味、体を毒するようなものでとても大変だった。運動はしなかった。
――心理面では?
半分動物で半分人間のようなイメージトレーニングをした。特殊な嗅覚を持つ役柄だから、YouTubeで犬の動画を見 て、どんなふうに鼻をくんくんさせ、においを嗅いだりするのかを観察したりもした。
――特殊メークは大変だった?
人工装具を9つも着けた。まぶたにまで! 特殊メークをしていないのは唇だけという状態だった。
最高に桁外れの変身でわくわくしたけど、かなり大変でもあった。毎回、4時間かけて特殊メークをして、10時間の撮影に臨み、終わったらメークを落とすのにまた1時間かかる。精神的にも肉体的にも、この役をやるのは大きな重圧だった。