個の力が輝く職場へ...星野リゾートが築く「フラットな組織文化」とは
フラットな組織文化とは「誰もが、対等な立場で、侃々諤々(かんかんがくがく)と議論ができる文化」
<近年、アマゾンやメタといったアメリカの大手テック企業が取り組む「組織のフラット化」が注目を集めているが、星野リゾートは30年以上前からこれを先駆的に導入し、従業員のモチベーション向上やブランディング強化に活用している>
世界を変えるには、ニュースになるような大規模なプロジェクトや商品だけでは不十分。日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。この考えに基づいてニューズウィーク日本版は昨年に「SDGsアワード」を立ち上げ、今年で2年目を迎えました。その一環として、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
フラットな組織文化で競争力を高める
日本屈指の総合リゾート運営企業である星野リゾートは、「世界に通用するホテル運営会社」を目指し、現在国内外で72施設(2024年10月時点)を展開している。その強みの一つが、「フラットな組織文化」だ。
同社いわく、フラットな組織文化とは「年齢や役職、性別、国籍、宗教等に関係なく、誰もが対等な立場で、侃々諤々(かんかんがくがく)と議論ができる文化」を指す。多くの企業では組織文化を自然発生的な「社風」として捉えがちだが、星野リゾートはこれを戦略的に人事制度に組み込み、企業成長の基盤としているのが特徴だ。
「接客業の現場では、お客様の要望に対して、どれだけスムーズかつ柔軟にお応えできるかが重要です。しかし、伝統的なピラミッド型組織の場合、上司への相談や承認が必要になるため、各スタッフが瞬時に判断・実行しにくい状況が生まれがちです。そのため、当社では、スタッフ一人ひとりが自由に発想し、チームで建設的な議論を重ね、自らの頭で考え、正しい経営判断ができることを目指しています」と、サステナビリティ推進担当の小泉真吾氏は語る。
星野リゾートでは、このフラットな組織文化を醸成するために、経営情報を積極的に公開し、顧客満足度調査や財務データを共有している。これにより、スタッフ一人ひとりが経営者視点を持って議論に参加し、サービスの質を向上させる意識が育まれている。また、社内ビジネススクール「麓村塾(ろくそんじゅく)」を設置し、スタッフがビジネススキルを高める機会も提供している。
こうした取り組みによって、接客の最前線で働くスタッフが、新たなサービスの発案・開発に直接関与できるようになっている。地元の特色や季節感を活かした企画の数は、この1年間で300件以上にのぼり、顧客体験の質やブランディングにも大きく貢献している。
また、星野リゾートでは「昇進」や「降格」といった固定的な人事制度を排し、年に2回実施される「立候補プレゼン大会」での戦略提案を通じて役職が決定される。これらの仕組みによって「社員間の情報格差」や「チャレンジ機会の不平等」が解消され、2023年度の女性管理職比率は全国平均15.1%を大きく上回る29.2%に達している。