「日本人は世界一アルツハイマー病に罹りやすい」のに医療保険制度が障害に 「調子が悪くなったら病院へ行く」では遅すぎる
それらの組み合わせで、「健忘型・単一領域」「健忘型・多重領域」「非健忘型・単一領域」「非健忘型・多重領域」の4つのタイプに区別されます。
2013年にオーストラリアの研究チームがMCIの人たちを2年間追跡調査した結果、それぞれのタイプによって図表2にあるような推移が見られたそうです。
出典=『アルツハイマー病にならない習慣』(フォレスト出版)
ほかにも、さまざまな研究において、似たような数字が報告されています。
日本神経学会の「認知症疾患診療ガイドライン2017」によれば、健常者がMCIを経て、軽度認知症、中度認知症、重度認知症と進んでいく過程の中で、MCIと診断された段階で適切な予防治療を行なえば、16~41%の人が健常者ゾーンに戻っていくことが示されています。
とにもかくにも、アルツハイマー病を発症する前の対策が非常に重要だということがわかるでしょう。
アルツハイマー病はとにかく予防がすべて
私たちが明らかにアルツハイマー病と診断されれば、精神科や脳神経内科などで治療を受けることになります。そして、薬が処方されます。しかし、その薬でアルツハイマー病を治すことはできません。エーザイが開発した「レカネマブ」という薬が注目されていますが、まだまだ効果のほどはわかっていません。
今のところ、アルツハイマー病を発症してから治す方法は1つもありません。進行を止める方法もありません。予防がすべてです。要するに、本来であれば、水面下でじわじわ進んでいる発症前の段階でこそ治療が必要なのに、今日の日本の医療保険制度ではそれができないのが現状なのです。
このように、アルツハイマー病に関して、私たちを根本的に救ってくれる「医療」は存在しません。私たちは、自分で予防行動に出るしかないのです。
アメリカの場合、医療を受けるのにはとてもお金がかかるので、日本のように「調子が悪くなったら病院に行けば良い」というわけにはいきません。その分、「病気にならないように」という予防意識を強く持っています。しかし、普段から手厚い医療保険制度に守られてきた日本人は、それが苦手だと言って良いでしょう。
風邪でも腹痛でも躊躇(ちゅうちょ)なく病院に掛かることができる日本人は恵まれていますが、こと、アルツハイマー病に関しては例外と考えましょう。アルツハイマー病は、ほかの病気と違います。「調子が悪くなったら病院に行けば良い」では遅いのです。
牧田善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。 2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。 著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。