最新記事
映画

『エイリアン』最新作の小さすぎる野心...監督は「殺害シーンにだけ関心アリ」?

This Alien Is Just Inbred

2024年9月6日(金)14時06分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)
『エイリアン:ロムルス』のエイリアン

監督のアルバレスがシリーズの過去作を丹念に研究した形跡はあるが 20TH CENTURY STUDIOSーSLATE

<シリーズ7作目となる映画『エイリアン:ロムルス』。過去作を研究したストーリー・会話が盛りだくさんだが、挑戦と変異がない──(作品レビュー)>

映画の『エイリアン』シリーズが長く続いている理由は、この映画の目玉であるエイリアン(異星人)も顔負けに、シリーズそのものが変異し続けてきたことにある。

映画の長寿シリーズは、長年の間に積み重ねられてきたストーリーが足かせになり、次第に精彩を欠くようになることが珍しくないが、このシリーズは違う。


1979年の第1作『エイリアン』を皮切りに、45年間に送り出された7作品に携わった5人の監督たちには、ゼロから作品を作る自由が与えられてきた。


その結果として、シリーズのファンに優しいとはお世辞にも言えない作品が作られてきた。『エイリアン3』では、シガニー・ウィーバー演じるヒロインのエレン・リプリーをあっさり死なせている。

その200年後という設定の『エイリアン4』では、リプリーがクローンになって復活する。ただし、そのクローンでは、リプリーのDNAとエイリアンのDNAが融合しているという設定だ。

映画としての出来栄えが常に見事と言えるかは別にして、このシリーズの作品は見ればすぐに分かる。その点では、フェデ・アルバレスが監督、アルバレスとロド・サヤゲスが共同で脚本を務めた最新作の『エイリアン:ロムルス』も例外でない。

『ロムルス』の時代設定は、シリーズ第1作と第2作の間。第1作『エイリアン』の最後でリプリーが自爆させた宇宙輸送船「ノストロモ号」の残骸を、宇宙探査機が回収する場面で始まる。

殺害シーンにだけ関心

アルバレスはシリーズものの映画監督のかがみと言っていいだろう。『エイリアン』シリーズの過去の作品を丹念に研究していて、その研究の成果を披露したくて仕方がないようだ。今回のシリーズ第7作には、過去の作品を下敷きにしたストーリーや会話がたっぷり盛り込まれている。

そのなかでも最も大きく取り上げられていて、しかも最も説明不足の感が否めないのは、イアン・ホルムが演じたアンドロイドの「復活」だろう。


アンドロイドのアッシュは79年の第1作で破壊されたが、利用できるキャラクターを利用しない手はない、という発想なのだろう。ホルム自身も2020年に死去しているが、『ロムルス』では、AI(人工知能)を活用して亡きホルムの姿と声を生成し、「出演」させた。

『エイリアン』シリーズ全体に共通する要素の1つは、巨大複合企業のウェイランド・ユタニ社がひたすら利益追求に走り、人命を軽んじることだ。その点、『ロムルス』の場合は、作品そのものがウェイランド・ユタニ社の制作物のように感じられる。非人間的である上に、冷酷なまでに効率が重視されているからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中