最新記事

言語学

欧米の言語はなぜ繰り返しが多く、くどいのか?

2020年3月26日(木)11時10分
平野卿子(ドイツ語翻訳家)

bowie15-iStock.

<ドイツ語の本を日本語に翻訳する際、4分の1ほどカットしたいと著者に申し出たことがある。著者に理由を説明すると、「きっと日本人のほうが、頭がいいんですね」と笑った>

翻訳をしていて、いつも気になることがある。文芸作品は別だが、ドイツ語であれ英語であれ、繰り返しの多さだ。これでもかこれでもかというほど、同じことを繰り返す。

以前、『幸せの公式』(講談社)という作品を翻訳した。最新の脳科学の知見をベースに幸せとは何かについて論じた、とても興味深い作品だった。著者はドイツの有名週刊誌『シュピーゲル』の元記者で、文章はとてもうまい。

しかし、とにかく繰り返しが多く、くどいのだ。仕方なく私は、ドイツのエージェントを通じて4分の1ほどカットしたいと申し出た。文章がくどいと言うのも気が引けたので、「厚い本は日本では売りにくい」など、あれこれ理由を並べて説明した。

しかし、返事が来ない。ずいぶん経ってから、婉曲な断りがあった。けれども、どうしてもこの膨大な繰り返しを訳す気にはなれなかったため、思い切って最初の10ページをコピーして削りたい箇所を囲い、「このようにカットしたいと思います」とエージェントにファクスで送った。

すると、その1時間後になんと著者から直接返事が来たのだ。「了解。すっきりして、かえってわかりやすくなったかもしれません」。それまでのいきさつを思うと、びっくりするようなあっけなさだった。

数年後、ベルリンで著者とゆっくり話す機会があったので、そのことを聞いてみた。すると「あなたのファクスを見て、確かにこれでも通じると思いました」と言うので、「実はあなたの本だけではありません。他にも、著者の了解を得てカットしたことがあるんです。私と同じようなことを感じている日本人翻訳者は多いと思いますよ」と私は言った。

表音文字と表意文字を同時に使う日本語

私の昔からの自論はこうだ。アルファベットとカナ(ひらがな・カタカナ)は表音文字であり、漢字は表意文字だ。日本語はこの両方を同時に使う言語である。漢字とカナは脳の別のところで認識されるため、脳はより活性化される。しかも漢字は図像なので、視覚に訴える力がカナよりはるかに強い。だから、日本語を読むときには表音文字だけの欧米語よりずっとしっかり記憶される、と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エリオット、LSEG株大量取得か 経営改善へ協議と

ビジネス

中国1月自動車販売19.5%減、約2年ぶり減少幅 

ワールド

米下院、トランプ関税への異議申し立て禁止規定を否決

ビジネス

深セン市政府、中国万科向けに116億ドルの救済策策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中