最新記事

米経済

ショッキングな米4月雇用統計が「期待外れ」でない理由

2021年5月10日(月)18時45分
ジョーダン・ワイスマン(スレート誌記者)
アメリカ、人手不足

コロナ対策の手厚い失業手当が人手不足を生んでいる? MARCO BELLO-REUTERS

<予想を大きく下回り、衝撃が広がっているが、今回の雇用者数や失業率の統計には慎重に読むべき点がいくつかある。例えば、失業率は確かに若干上昇したが、労働力人口は43万人増加している>

アメリカ経済はコロナ不況を抜け出し、景気回復の軌道に乗ったのではなかったのか――エコノミストやジャーナリストの間で衝撃と戸惑いが広がっている。

5月7日に発表された4月の雇用統計が予想を裏切る内容だったのだ。

好調だった3月と打って変わり、非農業部門雇用者数は前月比で26万6000人の増加にとどまり、失業率も若干上昇した。事前の市場予想では、ワクチン接種の加速を受けて、雇用者数が100万人ほど増えるとみられていた。

「あまりに期待外れだ。景気の見通しについて見方を変えなくてはならない」と、ミシガン大学のジャスティン・ウォルファーズ教授(経済学)は述べている。

この雇用統計をきっかけに、連邦政府がコロナ救済策として手厚い失業手当を支給していることの是非をめぐる論争がさらに激化しそうだ。

ビジネス界(特に外食産業)は、充実した失業手当が人々の就労意欲をそぎ、それが人手不足を招いていると不満を募らせてきた。一方で、コロナ感染への不安が原因で職に就かない人も多いのではないかという指摘もある。

7日に発表されたデータを見る限り、人手不足に拍車が掛かっていることは間違いない。

ホテル・レストラン業界では、働き手の週平均の労働時間が大幅に増えている(既存のスタッフが長時間労働を求められていることを意味する)。それに、平均時給も上昇している(高い給料を支払わなければ人手を確保できないことを意味する)。

ワクチン接種が進むなかで雇用回復のペースが減速したことは、コロナ感染への不安以外の理由で――つまり失業手当が理由で――就労を控えている人が少なからずいる証拠と言えるかもしれない。

共和党の政治家が今回の強烈な数字に激しく反応することは目に見えている。モンタナ州とサウスカロライナ州の知事は既に、産業界の不満に応えて、連邦政府の失業給付プログラムからの早期離脱を表明している。共和党知事の州は続々とこれに続くだろう。

しかし、この1回の雇用統計に過剰反応することは避けたほうが賢明だ。雇用統計は一貫性を欠いた動きを示すことがあり、発表後に数値が大幅に訂正されることも多い。

それに、今回の雇用統計は、慎重に読まなくてはならない点がある。

【話題の記事】
中国はアメリカを抜く経済大国にはなれない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中