最新記事

ニュースデータ

日本の若者の貧困化が「パラサイト・シングル」を増加させる

2015年10月20日(火)16時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

 しかし「パラサイト・シングル」の顕在化は、日本の深刻な社会状況の変化を反映している。昨今の経済条件の悪化によって、若者が実家を出たくても出られず、パラサイトせざるを得ない状況に陥っているからだ。

 25~34歳の男性就業者に占める非正規雇用の割合は、1992年では6.5%だったが、2012年では16.4%にまで増えている。これに伴って平均年収は402万円から350万円へと減り、年収200万円未満のいわゆる「ワーキング・プア」が占める比率は6.3%から14.3%へと増加した(総務省『就業構造基本調査』)。

 これは日本全国の数値だが、地域別にみるともっと凄まじい値が出てくる。<図1>は、若年男性の都道府県別の「ワーキング・プア」の比率が、この20年間でどう変化したかを示したものだ。

maita-chart-02.jpg

 日本列島全体で若者の貧困化が急速に進んでいる。これが「失われた20年」のリアルだ。2012年では26の県で15%、13の県で20%(5人に1人)を超えている。最高の沖縄県は4割という惨状だ。

 このような経済状況の変化が、若者の自立を阻んでいることは間違いない。若年層に対する経済的支援、とりわけ生活の基盤である「住」に重点を置いた支援策が必要だろう。ヨーロッパでは政府が低家賃住宅を提供している国もあるが、日本ではそうした物件は少なく、賃貸住宅のうち公営住宅が占める割合も極めて低い。若年層が新居を構えることができれば、それが家財用品の消費の増加や、結婚・出産の増加につながり、社会全体の経済活動が活発になる。

 若者のパラサイト化の進行の背景には、この20年で急激に悪化した経済状況がある。現実には自立したくてもできない人が少なくない。若者がこうした現状から脱却できるよう、自立を促す様々な条件を整える政策が急務だ。

<資料:『世界価値観調査』(2010~14年)総務省『就業構造基本調査』(2012年)

[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

≪この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相が対面で初会談、「相違点の管理」で合意 協

ビジネス

ドイツ議会、540億ドル規模の企業減税可決 経済立

ワールド

ガザの援助拠点・支援隊列ルートで計798人殺害、国

ビジネス

独VW、中国合弁工場閉鎖へ 生産すでに停止=独紙
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中