米中貿易「第1段階合意」を中国はマジメに履行しない
一方の中国側にとっては、アメリカの諸要求を一方的に呑まされたこの合意内容は単なる敗北というよりも屈辱的な降伏、「城下の盟」というべきだろう。屈辱の合意だからこそ、習近平国家主席は署名式には出席せず、副首相の劉鶴を派遣して代役をさせた。それは当然、国家元首としての習の体面と権威を何とか保つための必要最低限の措置だろう。以前、劉が貿易協議の中国側代表としてアメリカを訪れる時、「国家主席特使」という肩書を付けることが多いが、今回はその肩書もない。習と今回の屈辱的合意との関係性を極力薄めたいという中国政府の思惑が見え透けている。
中国政府にとって、副首相の劉をアメリカに派遣して署名させたことにはもう1つの政治的効果があった。自国の副首相がホワイトハウスで、アメリカの国家元首たるトランプとあたかも対等であるかのように文書に署名したことで、中国政府は一般国民に「中国が優位である」との錯覚を与えることができた。実際、テレビを通してこの光景を眺めた多くの中国人ネットユーザーは一斉に「中国が凄い!」と興奮し、合意の内容とは関係なくいい気分になっていたようだ。
米中の「第1段階の合意」はこれで成立したが、今後の最大の問題は中国政府がこの合意内容をきちんと履行していくのかどうかにある。
そして私の結論は、それは今年11月のアメリカ大統領選の結果次第である。
一体どういうことか。合意内容の一つである、中国側が約束した追加2000億ドル分の米国製品の購入を例にとってみればわかりやすい。
米大統領選に潜む大きな「抜け穴」
合意に従って、中国は2020年と21年の2年間で、農産物・エネルギーなどを含めた米国製品を追加で2000億ドル分を買うこととなっている。しかし一部の経済紙や専門家が分析したように、その完全履行は中国にとって極めて難しい。経済の減速に従って中国の国内需要がむしろ減っていく中で、今までの輸入ペースを維持した上でさらに米国製品を追加で大量購入するのは、国内需要の面からしても購買能力の面からしてもかなりの無理を強いられる。
その一方、明確な数値目標が決められているこの約束の履行を、中国がごまかすのも結構難しい。履行しなければ、トランプ政権はいつでも中国に対する制裁関税の追加や引き上げを実行する。
それでは中国はどうするのか。実は中国にとって幸いなことに、「2年間で2000億ドル分の米国製品を買う」という約束には、米大統領選と絡む1つの大きな抜け穴がある。
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