コラム

住所もヤバければ、名前もヤバい、マイナカード問題の難しさ

2023年06月28日(水)19時00分

政府は健康保険証との統合でマイナ登録を急ごうとしたが…… y-studio/iStock.

<本来ならシステムを作る段階で名前、住所のデータ様式は統一しておく必要があった>

マイナカードの運用がうまく行っていないようです。これについて河野デジタル相は、「日本の住所はヤバい」とか、「マイナを推進したのは旧民主党」だなどという発言をしています。どちらも間違ってはいませんが、責任回避のように聞こえる発言は、かえって信頼を悪化させるだけと思われます。

かといって、河野大臣のように実務への理解能力のある閣僚を外して、理解も説明もできないような政治家が担当大臣になるようなら、迷走は深まるばかりになる危険があります。河野大臣は今こそ「突破力」を発揮して、この問題への信頼回復を果たして頂きたいと思います。

具体的にどうやって信頼回復をするのかというと、大規模なDXの推進を「人海戦術」でやるなどということはあってはなりません。そうではなくて、できるだけデータをクリーンにして、シンプルかつ強力なシステムを確立して安定した運用を実現するのが先決です。

その際に問題になるのが、紐づけするデータの一致です。その際に、河野大臣の言う「日本の住所はヤバい」という問題は、笑って済ませられる話ではありません。住所に関するデータが不統一では、個人を特定する際に、紐づけが難しくなるからです。仮にマイナと金融機関、マイナと保険や年金などを紐づけする際に、照合した住所が間違っていたら、もしかしたら別の人物かもしれないわけで、そこでチェックをかけることができます。

地番表記の段階から「ゆれ」がある

現在はおそらく多くの現場では、その「同一人物」チェックを人手で行っているわけですが、できるだけシステムによるエラーチェックを掛ける必要があります。その際に、データが不統一であると、エラーばかりになってしまいます。それ以前の問題として、マイナの住所が間違っていたら、重要な書類が本人に届きません。ですから、「日本の住所がヤバい」というのは、これはもっと真剣に考えるべき問題です。

日本の住所というと、例えば京都の独特の通りを基準とした住所表記であるとか、地方によっては大字(おおあざ)がどうとか、難読地名など、色々と面倒な例外があるわけです。これは確かに複雑ですが、今回はこの問題は例外ということにしておきましょう。

そうではなくて、もっと幅広く、全国にわたる問題としては、まず「地番の書き方」があります。例えばですが、「1丁目1番地1号」を「1−1−1」と書くとか、「1丁目1−1」と書くことがあります。これだけでも3通りあるわけです。エラーチェックを効率的にかけるには、こうしたデータの標準化が必要です。

さらに言えば、「建物名」が必要かという問題があります。「1−1」という地番が「Aマンション」と「1対1対応」をしているのなら良いのです。確かに「Aマンションは全部が1−1」というケースがほとんどだというのは、事実でしょう。ですが、小さなマンションなどで「1−1」という同じ番地には「Aマンション」も「Bマンション」もあるという場合は、建物名が必要になります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

英政府、中国大使館建設計画巡る決定を再び延期 12

ビジネス

米銀、アルゼンチン向け200億ドル融資巡り米財務省

ワールド

インド、すでにロシア産石油輸入を半減=米ホワイトハ

ワールド

マレーシアGDP、第3四半期速報は前年比+5.2%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story