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日本社会の格差を加速させる、深刻な「悪い円安」
日米の金利差が意識されたことで円安が急速に進んでいる Kim Kyung Hoon-REUTERS
<多国籍企業の利益や株価が膨張する一方で、国内産業には原油高・資源高のコストが重くのしかかる>
20世紀後半の1973年、ニクソンショックによって世界の通貨が変動相場制に移行して以降の約40年間、日本経済は円安と円高に一喜一憂していました。円高を恐れ、円安に安堵する、そうしたクセはこの時期から、日本に染み付いていったのです。当時の日本経済は、輸出向けの製造業が牽引していた時期だったからです。
考えてみれば当たり前のことです。当時の日本の製造業のトップは自動車産業であり、その最大の市場はアメリカでした。仮にアメリカで2万ドルで売っている車があるとします。その車種が、日本から完成車を輸出している場合のコストが、仮に1ドルが100円の場合に120万円だとします。ドルで見たコストは1万2000ドルで、粗利益は8000ドルになります。(実際は、その利益の一部は問屋とディーラーに分配されますが)
これが1ドル80円に上昇すると、ドルで見たコストは120万円を80円で割った1万5000ドルに上昇し、粗利益は5000ドルに減ってしまいます。円に倒して計算した場合も、実質的には同じですが、今度は売価の2万ドルが100万円ではなく160万円になってしまいます。ですから、当時の日本では「円高は不況」であり「円安は好況」という公式が成立したのです。
その後、2010年代に当時の安倍政権が実施した「アベノミクス」では、確かに円相場を安く誘導することに成功しました。ですが、20世紀末の時代ほどには、その効果は生まれませんでした。
主要産業の空洞化
これは日本経済の空洞化が進行していたからです。北米向けの自動車はほとんどが現地生産になりました。ここ数年は変動が激しいのですが、日本の自動車産業の全体としては国内生産がおよそ20%で、海外生産が80%になっています。日本国内の生産には軽自動車を含むため、金額ベースでの海外比率はもっと高くなっています。
日本国内には部品や素材の産業は残っていますが、エンジンなど大きな部品の組み立ては中国で行い、完成車は北米という構図が成立しています。そんな現状では、自動車1台の売上に占める日本国内の経済、つまりGDPへの寄与は極めて限られています。
それにもかかわらず、経済界が円安を望み、安倍政権がこれに応えたのは別の目的がありました。それは、自動車産業など日本発の多国籍企業が、海外で生み出した利益が円安のために円に換算すると膨張して見えるという効果です。また、多くの企業の株式は海外の株主によって保有され、またNY市場など海外で取引されています。ですから、株価はドルで形成されるのですが、これも円安となれば円建の株価は膨張します。
ですから、日本で純粋に円だけで見ていると、多国籍企業の場合に「市場空前の利益」だとか「空前の株高」ということになります。ドルで見れば、何も起きていないのに、円に換算して見ると数字が良くなるわけですが、実は「何も起きていなかった」のです。
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