Picture Power

【写真特集】人類と自然の衝突が生む「空虚」

THIS EMPTY WORLD

Photographs by NICK BRANDT

2019年05月10日(金)17時15分

バスターミナルとゾウ。今回のプロジェクトが行われたのはケニアの先住民族マサイが住む地域

<アフリカで住む地を奪われているのは野生動物だけではない。そこに移り住む人々も、元の生活と生活の糧にしてきた豊かな自然を奪われている>

無秩序な開発と急激な人口増加により、人間の居住地が野生動物の楽園を侵食し続けている。写真家ニック・ブラントが写真集『ディス・エンプティ・ワールド』で訴えるのは、そうした途上国での悲劇的な実状だ。

写っているのはゾウなどの野生動物と人間、そして人工的な建造物が同居する奇妙な光景だが、これらは現実ではない。動物と人間それぞれを同じ場所で撮影し、合成したものだ。

ブラントのチームはまず最低限の撮影セットを組み、動物が通るのを何週間も待つ。撮影に成功したら、次はカメラを固定したままでバス停や工場、工事現場といった大掛かりなセットを用意し、エキストラとなる人々を配置して再び撮影する。

この2つを合わせた作品は、確かに架空の光景だが、既に世界で起きていること、そしてこの地で間もなく起きる現実を象徴的に表している。

もう1つ、ブラントは住む地を奪われる動物だけでなく、ここに移り住まざるを得ない周辺地域の人々も同じく被害者だと訴える。彼らもまた元の生活と、生活の糧にしてきた豊かな自然という「資源」を奪われているのだ。写真には写らない、開発業者や政治家など目先の利益を優先する人間によって。


ppempty02.jpg

橋の建築現場と作業員とゾウ。ハリウッドさながらの大規模なセットが組まれている


ppempty03.jpg

<架空の建造物>上写真の撮影風景。ゾウが通る姿を捉えたカメラを固定したまま、画角に収まるよう架空の建築現場を造り上げる。使った資材は次の現場で再利用し、セットの痕跡は一切残さないという。ブラントが共同設立したNPO団体はアフリカ東部の8000平方キロメートルの土地で密猟の監視などを通じた自然保護活動を行っている


ppempty04.jpg

サバンナのライオンと人間。エキストラを集めて行われた「第2部」の撮影は2カ月を要した

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story